▼ 〇〇しないと出られない部屋
「……なんだ、ここは」
「どうやら閉じ込められたみたいです」
私とヴェノムさんはとある部屋に閉じ込められてしまった。閉じ込められた部屋は窓もなければドアもない、完全な密室だ。
何者かの攻撃を受けたわけでもない。ヴェノムさんと会って、いきなりこんな密室の部屋に閉じ込められていたのだ。
とにかく、一刻も早くここを出なければ。と思い部屋を見渡してみる。
「……小さい穴とかないかなあ」
「私もさっきから見渡してみたが、そんなものはない」
「そんなぁ」
「だが、こんな紙を見つけたぞ」
ヴェノムさんはそう言って紙を渡してきた。紙には「ハグしないとこの部屋から出すことはできない。10分以内にやること」と書かれていた。
新手の悪戯かなにか、と思ったがこの密室で何もなく、ただ紙だけが置いてあるのも妙だ。つまりこの依頼をやればいいのか、と思うほどだ。
紙を見終えた私はヴェノムさんを見つめる。ヴェノムさんは長い前髪からは分かりにくいがじっと真剣に見つめている気がする。
「えと、これ、やらないといけないのかな」
「……私も考えてみたがそうらしいな」
「……じゃあ、いきますね」
私は深呼吸して、ヴェノムさんに抱き着いた。露わになってる腹から背に手を伸ばす。
ヴェノムさんは無言でこちらを見つめたかと思えば、彼もまた、手を私の背中に触れた。お互いハグしている状況だ。
「……暖かいですね」
「……ああ」
2人で抱き合っているのは中々にシュールな画だ。何時まで抱き合えばいいのだろうか、と思っていると突然ドアが現れた。どうやら依頼をこなしたと見なされたようだ。
私はドアが現れると、慌ててヴェノムさんから手を離す。ヴェノムさんもまた、冷静ながら手を離す。
「ドア、出ましたね」
「そのようだな」
「じゃあ、出ましょうか」
「ああ。ななし」
「なんでしょう」
「君はとても暖かいな」
「……ヴェノムさんもですよ」
私と彼は部屋を出た。私達が部屋を出ると部屋は消滅してしまった。
何者かが私達を部屋に閉じ込めて悪戯したのかは結局考えてなかったが、中々面白い体験だった気がする。
私はそう思ったが口にはせず、ヴェノムさんと歩き出すのだった。
ヴェノムとあなたは『ハグしないと出られない部屋』に入ってしまいました。
10分以内に実行してください。
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