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▼ ちょっとした親切

私は今、街を歩いていた。
ついさっき街に着いたばかりで宿を探している状況だ。宿を探してウロウロしていると誰かとぶつかった。
ごめんなさい、と謝り、相手の顔を見ると髪で覆われているのだ。え、これ、前とか見えるの?とか思ってしまう。

(この人、髪で前が見えないんじゃないかな……)
「……大丈夫かね?」
「あ、いえいえ!大丈夫です」

髪の長い男の人に手を差し伸べられ、その手を掴み、立ち上がる。
しかし見れば見るほどこれ大丈夫?無事に見える?と思ってしまう自分がいる。おそらくさっき手を差し伸べた辺り、見えてるかもしれないが。

「ありがとうございます」
「何、気にするな」
(ところでちゃんと見えてるのかな?)
「……見えているさ」

心の声が聞こえていたのだろう、さっきの呟きに男の人が反応した。
私はやってしまったーと思いつつ、すいませんと謝った。男の人は気にしていないようで、大丈夫だと返してくれた。

「あっ、そろそろ宿を見つけないと」
「宿を探しているのか?」
「ついさっき、この街に着いたばかりでして……」
「宿のある場所まで案内しよう」
「え!そんな、いいですよ!」

私は手を振り、男の人の誘いを断ろうとする。男の人は気にもしてないといった感じで「ついていきたまえ」とスタスタと歩いていく。
私も男の人にはぐれないようにスタスタと歩いていく。歩くの早いなあと関心してしまう。

「あの、そういえば、名前、なんですか?」
「……名前を聞いてどうするというのだ?」
「いえ、あの、聞いてみたいなと思って。私はななしです」
「……ヴェノムだ」

ヴェノムさん、と名乗った男の人は髪で見えないが少しほほ笑んだ気がした。髪の毛で見えないけどそう感じた。
そうこうしているうちに宿の前にヴェノムさんは立ち止まった。私は歩く勢いを止められずヴェノムさんの背中にぶつかる。

「す、すいません!」
「なに、気にしないでくれ。それよりも宿に着いた」
「何から何までありがとうございます!」
「それはよかった。では、私はこれで失礼するよ」

ヴェノムさんはそう言って去ってしまった。
今度、お礼とかしなきゃね。と思いながら、私も宿の扉を開けるのだった。


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