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手が、頬に触れる。暖かくて綺麗な手のひらに、そっと包み込まれた。ふんわりと柔らかな熱が広がる。優しく、傷つけてしまわないように、ぴっとりと密着した。
ゆっくりと唇が重なる。上唇から喉にかけて甘い痺れを感じ、反射的にきゅっと目を閉じた。顔と耳を赤らめて、微かな吐息を漏らす。
舌の先が触れあった。ピクリと腰元が揺れた気がした。ぐいっと全体をねじ込んでしまうと、喉の奥から可愛らしい声がこぼれた。
スローモーションのようにベッドへ倒れ込んだ。ふかふかの布団が2人を受け止める。結んだ黒髪がゆるみ、シーツの上に放射状に広がった。
唇をほんの少し離す。ブラウンの瞳を潤ませて、荒く息を吐き出す彼の顔が見えた。

「至さん……本当にいいんですか?」

仰向けに横たわる彼の耳元に、しっかりと手をついた黒部由起夫は儚げに目を細めた。

「構わないよ……むしろ嬉しい。黒ベエがしてくれるなんて」

細長い指が、黒部の髪の毛をちょっとだけ挟んだ。

「そうですか。……男性を抱くのは初めてなので、些か緊張します」

「僕だって同じだよ。男に抱かれるのは初めてだ。……でも、お互い気持ちよくなれたら、それでいいじゃない?」

ふふ、と微笑みながらその大きな手は毛先を上へと伝い、頭のテッペンへ到達するとやんわりと撫でられる。

「……それもそうですね」

「うん、楽しもうよ」

よしよしと後頭部を軽く叩くと、齋藤は両腕を広げた。にこやかに目を細めて、男の動きを待っている。

「アナタを手に入れられれば、私は幸せだ」

シルバーの瞳を温かく輝かせ、笑う。顎に手を添えた黒部は、再び口づけを施した。
歯茎の裏や上顎を優しく舐めてやる。とても熱くてとろけてしまいそうだ。舌を優しく吸ってやると、ピクッと背中が震えるのが見てとれた。わざとくちゅくちゅという唾液の混じる音をたてる。

「ぁ……んっ、ふぁ……」

深いキスをされただけで、齋藤はヒクヒクとよがった。声を漏らすたびに、心地よさからか眉間に何本かシワが刻まれる。顔面を真っ赤にしながら、覆い被さるその体をやんわりと抱き締めた。
腰元に僅かな体温と重みを感じた黒部は、更に口の奥を貪ろうとする。唾液をすすり、舌を押し入れ、食らうように相手を求めた。
手が、動く。おもむろに指先を胸板へ置く。それだけでも彼は足を震わせて感じているようだったが、突起に触れてみると途端に顔面を背けて甘く喘いだ。

「あぁ……んっ、う……」

口が離れて、細い糸が引く。荒れた息遣いをしながら、目元を手のひらで覆った。

「……よがってるのか?」

いつもと違って敬語のない彼の喋りに、耳がジンジンと淡く痺れる。頷きながら力なくうんと言うと、男は服を鎖骨の辺りまで捲った。

「可愛いな……正直で」

指の腹が、直に乳首を愛撫する。くっきり立ったそれをツンと押すと、大きな体がのけ反った。

「んっ……!」

ベッドがきしんだ。潰したり揉んだりしてやると、そのたびに嬌声が飛び出た。胸を上下させ、脚をモゾモゾと動かしている。大分突起が固くなると、手早く衣服を脱がせた。
額に汗が滲む。大きな体躯を揺らしながら、しかし目だけはしっかりとこちらを見ている。水分でぼやける茶色の瞳が愛らしい。今まで指でいじっていた場所に口を近づけた。
唇で柔らかく挟み、吸う。唾液と舌と皮膚とが擦れて、ちゅ、と小さな音が聞こえた。

「ん、ぁ……んっ、はぁ……っ」

熱い手のひらが、黒部の背中をしっかり掴む。最近は手入れをしていないのだろうか、爪がカッターシャツ越しに食い込んで僅かに痛い。

「そんなに爪をたてなくとも、……まだ始まったばかりだろう?」

言い終わらないうちに齋藤の腰に手をあてがった。淡い黄色のチノパンを少しだけ下げ、ぺとぺとと肌を触った。思っていたよりも細くて骨張っている。うっすら浮かび上がる腹筋をなぞると、またひくっと尻が浮いた。

「感じるか?」

にやりとほくそ笑んだ綺麗な顔が、鼻先にまでずいっと近付く。下半身を刺激する男の熱と妖艶な瞳にじっと見られている快感とが、頭の中でぐちゃぐちゃに混ざった。

「っ……、ぁうっ、ん……」

眼球も耳も、五感全てがむず痒く痺れる。ふつふつと紅みが滲む体に鳥肌が現れた。泡立つような快楽、とはこの事を指すのだろうかと、黒部が今一度優しく微笑みかけてくる。
指に引っかけられたボトムスが徐々にずり下がった。尻の下をくぐらせ、膝をするすると抜かし、爪先を通り抜けた。脱がせたチノパンはベッドの下へ放った。
ダークグレーのボクサーパンツが、雄の形に浮き出ている。背が高ければやはりモノは大きいらしく、今にも下着からこぼれてしまいそうな程に、猛々しく変化していた。その様子に目を丸くする。

「随分と、……早いものだな」

「あっはは……実は最初のキスの時から……」

前髪の生え際をカリカリと掻きながら、齋藤はへにょっとはにかむ。

「可愛らしいな」

40過ぎとは思えぬ照れ顔に心を射抜かれた黒部は、思い切りその胸板へダイブした。

「あうっ!!」

臓器が圧迫されて小さく短い悲鳴が飛んだ。けほけほと何回か咳き込むと、べったりくっついて顔も上げない男の後頭部に手を添えた。

「意外に子供っぽい行動取るねぇ……」

自分の胸の上で静かに呼吸をする背中を優しくさする。

「アナタにだけ……」

肩の下に腕を潜り込ませ、絞め潰すが如くぎゅうっと抱き締めた。その手が熱いのなんの。ポンポンとスローテンポで手のひらを触れさせながら、齋藤は首を傾けた。

「これってもしかして……クーデレってやつかな?」

「だとしたら何だ?」

「ん〜?可愛いなあと思うだけだよ」

「…………ばか」

照れ隠しなのか、珍しくストレートな言葉を吐かれ、齋藤は思わず吹き出した。

「黒ベエも“ばか”なんて単語使うんだね〜」

「たまには使ってもいいでしょう……?」

「そりゃあモチロンだよ。可愛すぎてすっごく撫で撫でしたい」

言いながら、わしゃわしゃと髪の毛に指を絡めた。

「…………アナタの方が可愛い」

「そう?」

「……素直で羨ましい」

聞こえないよう呟きながら、むくりと顔を上げる。ばっちりと視線がぶつかった。


「……続行しますよ」

シーツと長身の間に挟まった腕を抜く。綺麗にカールした茶髪に口付けをすると、齋藤は目を細めた。のそりと体勢を整える男の襟を掴み、触れるだけのキスをしてやる。

「ハイハ〜イ、お手柔らかに」

呆気にとられたその瞳を覗き込み、くすりと妖しく笑う。







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