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鎌。鋭く切れ味の良さげな刃物が、暗いアメジストの様に不気味に光る。それとは対照的な古びた柄を、くるりと回して背にかけた。真っ白な建物の中、俺は1つの病室へと脇目も振らず向かう。こつこつと深夜の病棟に足音が響くが、ここにその恐怖の音を聞く事のできる奴などいない。
病院に現れる死神。いかにもありそうなシチュエーションだが、全くその通りとはいかない。世間一般的なイメージと大体は同じではあるものの、俺の外見は普通の人間であるし、ただ魂を狩り取る訳でもない。寧ろ、神様であるのだから人間に対して手荒な真似はご法度だ。
個室の戸をすり抜ける。実体になろうと思えばなれるが、こういう時はこっちの方が良い。手間がかからなくて済む。俺はベッドで寝ている人間の枕元に歩み寄り、その顔を見下ろした。
……リストにあった通り、魂の質が落ちている。このままでは1ヶ月もたないだろう。
俺はその青年の額に手をかざした。鎌と同じ鈍い光が彼に降り注ぐ。きちんと1ヶ月後に死ねるように。逆に言えば、1ヶ月という寿命を侵食してしまう程の死の恐怖を寄せ付けない為に。この光にはそんな呪いのような効果がある。何があっても、本当の命の終わりまで死なせない呪いとでも言えば良いだろうか。
光が全て青年の体に吸収されると、俺は床に腰を降ろした。
鎌を壁に立て掛け、ローブの懐を漁る。手探りで刻み煙草が詰められた煙管とマッチ箱を取り出した。箱の側面でマッチの先をこすり火を灯す。それを火皿に移して、たばこが燃えたと確認してから吹き消した。細い指で羅宇を支えるように持ちながら、ふうっと紫煙を吐き出した。煙は暗闇に飲み込まれて消えて行く。それをただぼうっと眺めていた。

「寿命……か」


命など、たかが知れている。






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