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今日は月光が丸1日大学にいるという。なので、大学もバイトも休みな俺は何をするでもなくブラブラと外へ出掛けていた。ショッピングモールで服を買い、フードコートで昼御飯という名のデザートを食べ、ゲームセンターで大きなぬいぐるみを取った。
ベンチに座ってペンギンのぬいぐるみをもふもふしながら彼に夕飯は何がいいかとメールを送ると、“鯖の味噌煮”と返ってきたので最後にスーパーへと寄った。丁度鯖の切り身が安くなっている。味噌はまだ沢山あったから、あとは付け合わせにする野菜を買おう。メインが和食だからたくあんとかでいいだろう。後は自分が食べたいものをホイホイとかごに入れていく。


買い物を終えると、右手にもふもふペンギンを抱え、左手に洋服と食品の袋をぶら下げてモールを出た。少し歩くと何やら外が騒がしい。駅に向かいたいのだが、人が大勢いて歩きにくい。何故こんなに溜まっているのか疑問に思って周囲を見てみると、皆一様に同じ場所を見つめている。俺も気になったので人の割れ目からそっと覗いて見た。
道路の中央、俺が行きたかった駅の手前にパトカーが何台も停まっている。その車体に囲まれるように、男と女が立っていた。男は女の首を腕に絡めている。その手の先には銀に光るものが握られていた。対して女は髪をボサボサに垂らしたまま固まっている。見たところ、人質を取っているのだろうか。
警官が銃を構えて包囲している外側には、規制線が張られていた。するとこの人間はただの野次馬だろう。項垂れてため息をつくと、邪魔だなと眉根を寄せた。
その時だ。キャァァアーー!!という悲鳴がこだました。女の高い声が耳をつんざいた。反射的に声のした方を見てみると、首と腹を真っ赤に染めた人質の女が、男の腕に引っ掛かるようにしてだらんと立っていた。遠目で確証は持てないが、抉られた腹からは臓物のようなものがはみ出ていた。
一瞬にして周囲がどよめいた。子供を連れた母親やデート中のカップルや主婦さんなど、物好き以外は皆一斉に青い顔をしてその場からバタバタ逃げていく。今まで呑気に見物していたのにも関わらず、それに予測できたというのに。……人間とは馬鹿な生き物だ。
さて、俺も野次馬になっている場合じゃない。家に帰って、月光の帰りを待ちながら夕飯を作らないと。くるりと背を向けて、最寄り駅とは別の方角のバス停へと向かう。立て込んでいるなら遠回りして行くしかない。ぬいぐるみを抱え直すと一人てくてくと歩き始めた。

バスに乗ると、人が沢山座っていた。おおかた先ほどの人質事件で駅へ行けなかった人々だろう。仕方がないので片手を空けてつり革に掴まる。時間はかかるが、このバス1本でも家の近くまで行けないことはない。たまにはゆっくり帰るのもいいだろう。念のために鯖にドライアイスをくっつけてきて良かった。
俺が降りるバス停は、終点より3つ手前の場所だ。このバスでは早くとも30分はかかるだろう。頭の中で今日の味噌汁の中身を考えながらぼーっと突っ立っていると、色んなバス停前でまばらにボタンが押され、まばらに人が乗り降りていく。少し経って目の前の席が空く。ラッキーと思い、膝にぬいぐるみを乗せてまだ暖かい座席へ腰かけた。
ふと、スマホを取り出した。何だかんだで先ほどの騒ぎが気になってはいたのだ。SNSで検索すればすぐ出てくるだろう。モール名を打ち込んだだけですぐ出てきた。動画、写真、わんさか出てくる。その中で気になるものを見つけた。批判の数が圧倒的に多い動画だ。余談だけど、俺は好奇心は強い方だ。迷わずイヤホンを片耳に差し込んで再生してみる。
それは、包囲線間近で撮られた動画だった。途中警察官に制止されるも、撮り続けている。30秒ほど見ていると、急に動きがあった。男が女を切りつけた、俺も目撃したあの光景だ。女は血を吐き臓物を垂らしその場に崩れ落ちる。これだけでも衝撃的な絵面だが、それは前振りに過ぎなかった。男が警察の顔をナイフで突き刺し、周りにいた野次馬までをも襲い始めたのだ。力の弱そうな女に始まって、若い男性、更にはお年寄りをも血で染めた。
地獄絵図だった。内臓を垂らして倒れている人質の女、目玉をえぐり出された警官、胸を一突きされて空中を仰視して息絶える男性、背中を痛がり泣き叫ぶお婆さん。そこで動画は終わった。たった2分ほどの動画だった。
俺は静かにイヤホンを外した。何でこんなヤバい映像が出回っているのだろうか、真っ先に出た感想はそれだった。投稿時間を見てみると、つい10分前の事である。
すげえもんを見た。こんな事になっていたとはまるで想像していなかった。後で月光にも見せてやろう。
……しかし、もしあの場にいたら俺も襲われていたかもしれない。そう考えると内心肝が冷えた。
早く帰って、飯作って、幸せな時間に浸ろう。バスを降りるまでの時間が待ち遠しかった。





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