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「つっきーって、青以外のメッシュ入れへんのかな?」

おやつのカツサンドをもぐもぐとゆっくり食べながら、種ヶ島が呟く。

「さあ?聞いてみれば分かるんやないっすか?」

返答したのは、その向かいに座っていた毛利だった。彼は焼きそばパンを咀嚼し、時折麦茶を飲んでぷはあと息を吐き出した。





ある雨の日の夜、二人は種ヶ島の部屋で雑談を交わしていた。と言っても、大曲が出払っている間に焼きそばパンで毛利を釣って部屋に押し入れるというかなり強引な手段を使ったのだが。
最初は嫌がって越知にしがみついていた毛利だったが、パンでいとも簡単に買収されてしまったようで……。袋の封を開け、フライング気味に食べながら種ヶ島に腕を引かれて部屋に連れ込まれ、そこからかれこれ15分程、男子トークというか雑談を続けている。


「ほな、寝ている間に別の色に染めたるってドッキリやりましょか?」

最後の一口を放り毛利は舌舐めずりをする。
確かに、越知が青以外のメッシュを入れているところを、二人は見た事がない。いや、恐らくここにいる全員がそうだろう。
たまには新鮮な月光さんが見たいと、毛利はにんまり笑う。些か荒っぽい手段だが、種ヶ島は身を乗り出して笑顔を作った。

「お、ええやんそれ!起きた時のリアクションが見ものやな!」

種ヶ島が乗ってくると、毛利はにやりと少々悪い笑みを浮かべて言った。

「そうとなれば善は急げっすね!早速今日やったります!」

こうして二人は“越知のメッシュ変色計画”を立て、いたずら者同士でダブルスを組んだ。
























深夜0時。
消灯時間を1時間ほど過ぎ、すっかり皆寝静まった時間。
毛利は物音を立てぬよう布団から抜け出した。隣にはこちらに体を向けてぐっすりと寝ている越知がいる。その寝顔を2度見3度見してくすりと笑う。寝顔に幼さが滲むというか、普段見れない柔らかな表情をしている。

(さあ、やったりまっせ!)

静かに息を吹き出すと、毛利は袖を捲った。

計画はこうだ。
越知が熟睡している間に、毛利が染料でメッシュの色を変える。そしてそれを写真に撮る。翌朝、毛利は寝たふりをして越知の様子を動画で撮り、ネタばらしをすると共に、こっそり種ヶ島に写真と動画を送る。
染料に至っては、毛利の所持品を使用する。彼は以前、越知のクールな青メッシュに憧れ、シャンプーで落ちるタイプのカラーを何色か購入していた。ただ、1回着けただけで自分には似合わないと判断し、荷物の底の方へ押しやっていたのだ。
毛利が持っているカラーは、赤、ピンク、黄色、緑、青、紫、黒、白の8色。内、青は省いて7色だ。まず始めは、二人で紫を選んだ。

スマホの電源を着け、目元を照らさぬように枕元に光を注ぐ。自分の枕の下に仕込んでおいた紫のカラーを回収し、開封した。
スマホのライトを眩しくないよう設定して、スタンドに設置し、越知の顔をばれないように照らす。キャップを開けると、染料独特の臭いが鼻を掠めた。
毛利が買ったこの染料は、全て同じタイプのものだ。持ち運びに便利な小さな筒状をしており、キャップを開けるとマスカラのようにブラシがついている。そのブラシ部分に容器の中のカラーをつけて髪に塗るのだ。
にやりと口の端を釣らせ、越知の青い髪を手に取った。

(ふっふっふー、月光さん失礼します!)

心の中で手を合わせると毛利はその前髪にべっとりと染料を塗りつけ、写真を撮って布団に潜り込んだ。




翌朝。
毛利はこっそりとカメラを起動させて、寝ている越知を映した。すやすやと赤子のように爆睡する寝顔に思わず微笑みがこぼれる。これを種ヶ島に見せてしまうのは勿体無いと、そんな思いからだ。

「ぅ……ん…………。」

前ぶれなく、越知が身じろいだ。
慌てて毛利は目を閉じて、起きたんか?と薄目で隣を確認する。どうやらその判断は正しかったようだ。越知は上体を起こして、ふあっと一つあくびをこぼしていた。そしてベッドから降りて、後頭部を掻きながら冷蔵庫へ向かう。

(なんや……気づいてへんの?)

寝返りを打つふりをして、ちらりと背中を見やる。毛利が見た限り彼は何も気付いておらず、冷蔵庫から飲料水のペットボトルを出して、水を飲もうとしていた。
透明なグラスに、同じく透明の飲み物がとぽとぽと注がれる。それを口につけ、ぐいっと斜めに傾けてごくりごくりと飲んだ。コップの中身を全て腹の中に流し込み唇を指で拭うと、越知はちらりと窓ガラスを見やった。

直後。

「寿三郎、朝だぞ。起きろ。」

ごつっと、背中に鈍い痛みが走った。何かが衝突したような、殴られたような痛みだった。大方、蹴られでもしたのだろう。微かだが内臓が揺さぶられた気がする。
かなりの力が加わり、押された毛利はごろりと横に転がり、危うくベッドから落ちかける。寸でのところでシーツを掴むが、衝撃が勝り落下は免れられない。どさりと音をたてて、左脇腹を床にぶつけた。

「い゙っ……!何すか月光さん……っ!」

打ち付けた箇所をさすりながら、がばっと上半身を起こすと、紫メッシュの入ったその姿が瞳に映る。その瞬間、毛利はぞくりと背筋を凍らせた。
指の先から足首から、硬直したように動かない。自分の体なのに、まるで言うことをきかない。瞬きさえもし忘れるほどだ。
それはきっと、彼の目を見てしまったせいだろう。

……いつもと違う、マゼンタの瞳を。



「……寿三郎。」

不意に越知が口を開く。びくりと、毛利は姿勢を正した。圧をかけられたのだ。

「な、何ですか……?」

どくりどくりと、心臓が伸縮する音がいつにも増してうるさく聞こえた。
越知は目を伏せると、ゆっくりと床を踏みしめて、かちこちに固まって正座をしている毛利の元へ近付く。そして鼻の頭が擦れ合うほどの距離まで顔を近付けると、くいっと自分の頭を傾けてそのまま唇を重ねた。

「?!」

驚いたのは勿論毛利だ。いきなりのキスに、顔面を真っ赤にして相手の肩を押し退けようとする。だが力の差は歴然としており、がっついてくる越知を突き放す事は出来なかった。
ぐいぐいと口の中に舌を差し込まれる。顔の傾ける角度を変えながら、何度も何度も貪られる。時折息継ぎをするも、毛利の体温は次第に熱くなって涙を潤ませる始末だ。
やがて満足したのか、するっと口が離れた。食い兼ねないほどの接吻を受けた毛利は力なく後方に手を着く。

「つき、さん……?」

まだ落ち着いていない荒い呼吸をしながら、毛利は首を傾げた。何故急にディープキスをされたのか、働かない思考を必死に回転させようとする。

しかし越知は待ってくれない。

後ろに手を着いた体勢を良い事に、その肩を、大きな手のひらで掴んで押し倒そうと力を込める。
ここで負けては朝から自分の喘ぎ声が響く事になってしまう。本能的にそう思った毛利は、手首を掴んで押し返し、対抗した。ぐぐぐ……と両者の手と肩が、押し合う力のせいで震える。越知は真顔で、毛利は歯を強く噛み締めながら、押しては返され押しては返されを繰り返した。
先に限界が来たのは毛利だった。
一瞬の隙を突かれて、凄まじい力に圧倒された。一気に視界が回って、背を床に付けられた。僅かな呻き声が、静かな室内に響く。自分に覆い被さるようにして顔を覗き込んでくる越知に、焦りの表情を見せた。
ぺろりと、越知の舌が自身の上唇を舐めた。明らかに余裕そうな表情をして、にたりと目元を笑わせる。荒っぽく毛利の右肩を掴むと、寝巻きの下……素肌に手を這わせた。

「は?!」

ひくっと、脇腹が捩った。滑らかな布で軽く撫でられたような感触に、自然と声が飛び出た。細長い指で腹筋をなぞられて、体が勝手にびくびくと反応する。自分の口元を左手で覆って、声が漏れないようにした。自慢じゃないが、自分の艶っぽい声は大分大きいらしい。だからたまに部屋の外まで聞こえるとよく言われるが…………さすがにこんな朝早くに喘ぎが響くなどごめんだ。なるべく触れられているところを見ないように首を傾けて目を閉じ、手を剥がそうと抵抗する。
紫色の前髪を揺らし、その隙間から両目をちらつかせる。必死に声を噛み殺すその様を見て、越知はズボンの中に手を忍ばせ、内腿から腹に繋がる線を指でなぞった。毛利が性器以外で最も感じる場所だ。

「…………っう、ぁ……く……!」

びくんと一際大きく体が跳ねた。その振動で目に溜まっていた涙が筋を成してこぼれ落ちる。
たまらず毛利は、勃ち上がる性器をズボンから取り出そうとする越知に問いかけた。

「っ、何で、つきさ、ん……、こない……急に……っ?」

率直な質問だ。
今の越知は性欲の鬼なのだろうか、もしそうならば何故なのか。3日に1回は必ず体を重ねているのに、それでは足りないのだろうか。何だかおかしくはないだろうか?くるくると回る思考は沢山の問いをはじき出す。
衣服を捲られ、露に肌を晒す格好で毛利が訪ねた。
か弱いような女々しいような声を絞り出した毛利に、越知は視線を注ぐ。たった今、突き上げる性器を手に包もうとしていたその動きを一旦停止させ、呟くように答えた。

「気分。」

毛利は唖然として半分ほど口を開けたまま、彼の目を見つめた。
気分。つまり何となくやろうと思ったらしい。
普通の月光さんは何となくで犯そうとしない。我慢がならないのなら了承を得てから触れる筈だ。

やっぱりおかしい。毛利は察し、左手でスマホを掴んだ。


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