例えば、楽しみにしていた誕生日をすっかり忘れていたときとか


「あ、お腹すいた!」








「貴様の発言はいつも思いつきだな」


はぁ、と一つため息をついてから彼はあたしを食堂へと案内した。
こっちの世界に来てから一週間はたっただろうか?
自慢じゃないがあたしは未だ卿の案内がないと自由に屋敷内を動けない。
だって広いんだもん!
食堂に着くとルッシーが先にいた。

「やぁやぁおはようるっしい」
「おはようございます。そしていつも思うのですがそのルッシーというのはやめていただけませんか」
「いやだなールッシーそんなに畏まらなくてもぉー。あ、これ朝食?いっただっきまーす」
「いえ、そんなわけには(そしてスルーされた…!)」

イギリスの料理は格別に不味いと聞いたが、ここの料理はいつ食べても美味しい。
イギリス料理ではないのだろうか。

「ごっそさん!」

ペロリと平らげ皿を僕妖精に渡した後、ルッシーが思いついたようにあたしに聞いてきた。

「そういえば璃紅様、何歳なんですか?」

その質問で、あたしは思い出した。

「ああああああああああああああああああああああッッッ!」

絶叫した。

「どうした」

心底うざったそうに卿が聞いてきた。
このやろう超興味なさげだな。

「あたしの誕生日あたしが来た次の日だったんです!」

さも重大なことである、という風に言う璃紅に対して白けた風にヴォルデモート卿はあくびをした。

「で?」
「え、終わり!?」

まさかの一言返しに唖然とする。

「誕生日に何の意味があると言うのだ」

ヴォルデモートさんはくだらないと言う風にふんと鼻を鳴らした。
やっぱり生い立ちが生い立ちなだけに嬉しがる意味が理解できないのだろうか。

「うーん、祝ってもらおうなんて差し出がましいことは言わないけど例えばケーキを買ってきてくれたりだとかハッピーバースデーって言ってくれたりだとかプレゼントくれたりだとか」
「十分祝ってと言っているぞそれは」
「そんなこと別に期待なんて、し、してないんだからねッ!」

ツンデレ風味だよ!

「期待しなくて正解だな」

あっさりとスルーされました。

「スルーはしないのが正解ですよ」

尚もスルーをし続ける卿を睨みつける璃紅。
ハッ!
もしやこの世界にはツンデレというものも存在しないのかッ!!

「卿、あのー、ツンデレって、知ってます?」
「何だ?それは」

首を傾げてくる卿は本当に知らなそうだ。

「じゃあヤンデレは?」

同様に首を傾げてくる卿。

「じゃあデレツン!」
「先程のツンデレと同じものなのではないのか?」

やっぱこっちにゃそういうんはないのかー。

「あっ!完璧に話題がズレてる!そうですよ!もう全然過ぎちゃいましたけどまだ間に合います!祝ってくださいッ!プレゼントくだしゃいッ!あ、そこで知らん振りしてるルッシーもだかんねーッ!」

ギクッという風に肩を揺らし、彼はバレたか、という視線をあたしに送ってきた。

「はいそんな顔しないー!ね、卿も勿論だからねッ!?」
「何が悲しくて貴様の誕生した日を祝わねばならない?寧ろ悲しむべきではないのか?」
「何言ってんの!このプリティーパンティー悪魔リンあ、違った。プリティー璃紅ちゃんが誕生した日なんだから寧ろ世界中の人を集めて祝うべきでしょ!」
「どの辺がプリティーだ?貴様、真の意味を理解していないな?」
「ひっど!毎度毎度御馴染みの卿の毒舌攻撃!」
「何を訳の分からん事を」
「で、誕生日プレゼントをプリーズ!プレゼントくれなきゃ悪戯するぞっ★」

キャハッ、と笑う璃紅に付き合うのも疲れたのか、ヴォルデモート卿は一つため息をついて階段を上がっていった。
ルッシーもそれに倣ってあたしに一礼してから階段を上がっていった。

「あれー、卿どこ行くのー?」
「今日は会議の日だ。貴様も大人しくしているんだぞ」
「はぁーい」

会議の日かー、じゃあ璃紅ちゃん暇になっちゃうじゃないか。
ぶー、と唇を突き出して拗ねる璃紅は、本当に幼児のようだった。
しかしいつまでもそんなことをしているわけにもいかず、璃紅は部屋に戻ることにしたのだった。








「ありゃあー?ここどこだ?」






周りを見渡しても目印になりそうなものは一つもない。
薄暗い廊下が先に伸びているだけで、他には何もなかった。

「よし、とりあえず真っ直ぐだ」

もっと進むと何やら見慣れたブロンドの髪の毛が!

「るーっしーいいいっ!!」

救世主発見直ちに捕獲せよ!
思い切りルッシー目掛けて駆け出してそして抱きついた(という名のアタックをした)。

「璃紅様、お離れください、苦しいです」

あたしはルッシーの背中に回していた手を解いてルッシーに「助けてくりー!迷っちまったぜ!」と笑った。
引きつる頬を押さえながらルシウスは璃紅の手を取った。

「ん?何かねルシウスクン」
「誕生日プレゼントでございます、璃紅様」

手を開いてみると先程ルッシーが握らせたらしい小さなオルゴール。

「え、えぇ、いいの!?」

まさか本当にもらえるとは思ってもみなかったようっわどうしよう!

「魔法がかけております。聞く時の気分に合わせて曲調が変わります。ネジは開けば勝手に回りますので」

ガシッとルッシーの手を掴んで、あたしは何度もありがとうありがとうと繰り返し礼を言った。
それが意外だったのかルッシーは少し照れながら「いえ、別にそんな大したことは…」とそっぽを向いた。

「あ、では私はこれで」
「はいはーい、この御恩は忘れないよー!またねー!」

ルッシーが見えなくなるまで手を振り(ルッシーはどうしたらいいのかと少し戸惑ってたけど)、さてと部屋に戻るか、ということで思い出した。







「ああああどうやって部屋に帰るのか聞くの忘れたあああああああ!!」


ダッシュダッシュ!
急いでルッシーの後ろを追えばきっとまだ間に合うはず…!

「あれ、いない」

急いで後を追いかけたのだが、行き止まりになってしまった。

「姿現しでも使ったのかな?」

首をかしげながら璃紅はまた来た道を戻った。
しばらく歩くと、璃紅は呆然とした。

「また行き止まり!?」

おかしいな、そんなはずは…。

「ヴォルデモートさああああああん!」

大声を出してあたしの頼みの綱の名前を叫んでみた。
しばらく待ってみる。










来ない。







しばらく待ってみる。














来 な い。














うん、やっぱ来る筈ないよね。うん。
いや、分かってたけどさ、分かってたけど悲しいこ「貴様はうずくまって何をしている?」とは悲し…。え?
璃紅は「の」の字を書いていた手を止めて声のした方を見た。

「ヴぉ………ヴォルデモートさん?え、もしかしてのもしかしてであたしの声に反応してここまで来てくれた感じですか!?」
「声?」

何のことだという風に彼は首をかしげた。
なんだ、普通に歩いてきたらうちを見かけたってだけか。

「部屋に戻ってろと言っただろうが」
「卿、これは不可抗力というものです、迷ったんです」

一つため息をついてから卿はあたしについてこいという手招きをした。

「どこ行くんですかー?」
「俺様の書斎だ」

え、書斎!?入るの初めてだ。

「何で!?え、怒られちゃったりします!?」

その質問には答えず卿はすいすいと歩いていく。

「てか卿の書斎ってどんな感じですか!?やっぱ本だらけ?」

あたしはまだ見ぬ卿の書斎に想いを馳せてみた。
やっぱ本棚には闇の魔術の本系がギッシリで、んでちょっと本で散らかってて、んで何か羊皮紙がそこら中に散乱してるの!
やっぱそんなイメージだな、うん。

「入れ」
「お邪魔しまあーっす!わお、想像通り」

なんというか、本当に想像通りだった。
全体的に暗くて、んでカーテンは閉まってて、陰気臭い。
そしてそこら中に本と羊皮紙が散乱している。

「目を瞑れ」

え、いやん卿そんな、わたし、まだ心の準備が…ッ!?

「いったあーい!」

泣きながら訴えると知らん顔で卿は「変な事を考えているからだ」と言った。

「卿開心術使ったの!?」
「そんな術を使うまでもない。貴様、自分の感情が表に出やすいのをそろそろ自覚しろ。そして目を閉じろ」
「はぁーい」

首に冷たい、何かが触れる感触。目を開けて首を触ってみた。

「あ、ペンダント?」

手にとって見てみると銀色に輝くクロスがあった。

「純銀だ。魔法がかけてある」
「じゅッ…純銀!?そっ、そんな物貰っていいんですか!?」
「いらないなら返せ」
「嘘ですいりますいりますてかホント、え、いいんですか…?」

卿は返事をしない。それは即ちイエスという意味。

「あ、ありがとうございます。後生大切にします」

やべぇ、卿の誕生日にもこれくらいの物贈んなきゃ。でも今は先のことなんて考えないでいっか。





今はただこの幸せを噛み締めていよう。


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