「一静、忘れ物無い?」
「無い」
「…怪しい…」
「そんな事…あっスマホ忘れた」

もうー…!と少し怒った声を背中に聞きながら、ソファーに置いてあったスマホをポケットにしまいつつ、これ以上忘れ物が無いことを願っておこう。

「「一静くん、おかえり」」
「ただいま、おじさんおばさん」
「名前ちゃんおかえり!」
「おかえり名前ちゃん、一静が迷惑かけてない?ちゃんと家事分担してる?」
「おじさんおばさん、ただいま!」

ちゃんとしてるよ!と笑う名前に、本当に?どうせお皿洗いしか…というか出来ないでしょ?とまるで俺と名前の生活を見ているようで何も言えなかった。

「…で?おばさんからの小言が嫌で逃げてきたのかよ」
「…まぁ。つーか呑む約束してたから逃げじゃねぇ」
「いや逃げでしょー!それより名前ちゃんは?」
「名前は女子会してる」
「まじかー…!会えると思ったのに」

どうせ此方にいる間は殆どコイツらと過ごす羽目になるのだから、必然的に名前も加わるのは決まっている。

「……てか松川、結婚しねーの?」
「ぶふっ…!」
「汚ねっ……!」
「まっつん動揺しすぎでしょ!えっ!もしかしてプロポーズした?!」
「…してねぇよ…!」
「なんだよー…したかと思ったじゃん」
「でもそろそろしねぇーと、名字の奴も不安になるんじゃね?」
「まぁ名前ちゃんならすぐに次の人見つかるだろうけどねー!」
「「確かに」」
「…お前ら…」

確かに名前ならすぐに次の人は見つかるだろうが…そんなどこの馬の骨とも分からない奴に渡す気なんて更々ない。

「名前、結婚しないの?」
「…するのかな…?」
「疑問系…!?でも名前と松川はもうしてそう」
「分かる分かる」
「してないからね?!それより奏多は?」
「奏多ちゃんと紫波はどうなのー?」
「…別に…」
「「絶対何かあったでしょ!」」

飲み会の次の日、久しぶりに帰って来たから散歩でもしようと名前を連れて外に出ると沢山の思い出が溢れていて。

「懐かしいー…!」
「なっ。この公園、小さい頃よく遊んだなー」
「ねっ!あっあそこの商店無くなってる」
「うわまじか…!買い食い場所が…」

二人で並んで歩くなんて、数えきれないほどしてきて。あの頃は当たり前の事が幸せだなんて分かるほど大人ではなくて、やっとこの歳になって幸せとは何か理解できた。

「名前」
「んー?」

卒業式の時と違うのは、綺麗な桜並木になっていて、俺と名前は歳を重ね、関係性が変わっていること。そして関係性を変えるのは俺の役目で。

「結婚しよう」

俺とこれからも歩んでくれませんか?と名前を見ると微笑んでいて。

「うん、これからも私の隣にいてください」

一静、大好きだよ。と笑う名前が愛しくて抱き締めると、苦しいー…!と聞こえた声にもっと力強く抱き締めた。

「「名前ちゃんおめでとう!!」」
「ありがとう!及川くん花巻くん」
「名字おめでとう」
「岩泉くんありがとう!」
「てか!こんなに早くプロポーズしたって聞くとは思わなかった…!」
「松川、元からプロポーズするつもりだったべ?」
「だからあの動揺の仕方か…!納得だわ」
「おう。…つーか俺におめでとうは…!?」
「「「あっ。おめでとー」」」

軽いな!おい!嘘じゃん!まっつんおめでとう!松川おめー!名字の事、幸せにしろよ!おめでと!とコイツらはいつも通りで。

「…ったく…アイツら張り切りすぎだろう」
「誰がスピーチするのかな?」
「…出来れば岩泉に任せたい」
「私は及川くんがすると思う…!」

本人達よりも周りがはしゃいでいた事を思い出し苦笑いしつつ、二人で並んで歩いているこの当たり前が幸せで。

「名前、これからもよろしくな」
「うんよろしくね、一静」

エリカ様[松川(春を想って)がプロポーズ]「結婚しよう」という事で。本当に本当に遅くなり申し訳ありません…。これは「春を想って」のIF話だと思ってください!この二人に言葉はいらないかなー…シンプルに「結婚しよう」がベストだと思いました。後は友情出演(及川岩泉花巻)が強めになってしまいました……(笑)リクエストありがとうございました!(御井)




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