11月22日別話 臨也視点
新セル前提 新←臨←静








どちらが先か、はナンセンスな問題だ。
先に出会ってもあとに出会っても、お前はどうせ陳腐な『運命』だとかなんとか言う言葉で片付けるんだろう。
それでも『もし』はあり得ないから、最初からどうしたって一番になれない。
でもさ、だから、ねぇ、


最初にチャイムを押してから少しの間を置いて露骨に嫌な顔をした新羅が俺を迎えた。
「……なんの用かな?」
新羅はとても迷惑そうに俺に尋ねた。
自分から首無しののろけを話に訪ねてくるときはあんなに機嫌がいいのに。
「君は全く厭な奴だなあ。誰のせいだと思ってるんだい? まあ今日はちょっとよかったけどね。君のお陰で今日という日を完璧にセッティング出来たよ」
そりゃそうだ。そうなるように俺がセッティングしたのだから。
「……で? 何か用かい? 怪我なら残念だけど普通の病院に行くか野垂れ死ぬかしてくれ。生憎今日は忙しくて」
「……まあ、そんなことは冗談だけど……もし緊急なら別の医者を紹介するから他をあたってくれないかな?」


……………………ずるい。


「嫌がらせにコーヒーでも飲みに来ただけだからさ、どうせ君のことだから中には入れてくれないんだろう? 人がいちゃつくための甘ったるい部屋なんて俺も嫌だしさ、今日は帰るよ」
あの時出来た精一杯の笑顔で踵を返し、すごすごと逃げ帰った俺は負け犬だ。



「おい、臨也ケツ貸せ」
「……最悪」
俺の目の前にはおおよそ人にものを頼む態度ではない不遜な物言いで仁王立ちするバーテンが行く手を阻んでいる。
「やだよ。いきなりなんなの? 人の顔見るなり突進してきてさぁ……俺そこまで盛ってないし、シズちゃん専用のオナホでも無いんだけど、わかる?」

前述の通り、シズちゃんは池袋の街を宛もなくさ迷っていた俺を見るなり猪のような勢いで突進してきて、路地裏に連れ込まれたのだ。
(やだなぁ……会いたくなかったのに……)
シズちゃんは俺の意思なんてお構い無しに俺をビルの外壁である汚いコンクリートに押し付け、てきぱきと俺のベルトを握りつぶした。安物だから良いというわけではない。
視界の端に映る粉々になったベルトのバックルを冷めためで見やり、半ば諦めて足を開いた。

「ヤッてもいいけどズボン破くなよ。着るものなくなる」
ローションとか、ゴムとか、ちゃんと用意してるのだろうか。財布に予備が入っていたか……完全に逃走を諦めた俺はだらりと四肢を投げ捨て、シズちゃんに身体を預ける。痛いのは厭だが、仕方がないし、今日は痛くてもいい気分だった。

しかしシズちゃんはすっかり諦めモードに入っていた俺の服を中途半端に脱がせたまま、固まった。
「……どうしたの? ヤんないの?」
首を傾げると、密着していたシズちゃんの身体がゆっくりと離れていく。
「やっぱいいわ」
「は?」
カチャカチャとズボンを正すシズちゃんを取り残された俺はポカンと見る。
シズちゃんはてきぱきと衣服を整え終わると、またいつものようにグラサンをかけ背を向けた。

「な……なんで? せっかくそれもいいかと思って諦めたのに、シズちゃんって酷い男だね」
「はぁ? 手前何言ってんだ?」
いつものバーテン姿のシズちゃんを非難すると、シズちゃんは心底理解できないと言わんばかりに不機嫌そうに眉を寄せて振り向いた。
「つーか、何があったか知らねえけど、諦めたとか言ってる手前になんで俺が突っ込まなきゃなんねぇんだよ」
支えられていた手を離されて、へなへなと崩れ落ちている俺の腕をシズちゃんは掴んで立たせると、だめ押しの言葉を言った。
「人をバイブがわりに使うんじゃねえ。悲劇のヒロイン気取りでオナってんじゃねえよ。やりてえなら一人でやれ」
それから振りあげられた腕に、思わず肩を竦め、殴られる……! と、反射的に目をつぶる。そんな予想に反して、俺の頭はシズちゃんのでっかい手にぽすぽすと撫でられていた。
「うぜえ」
撫でながらシズちゃんは不機嫌そうに呟いた。
「手前、いつもの数百倍くそうぜえんだよ。とっとと死ね。つーか俺が殺してやる」
酷いことを言われているはずなのに、頭を撫でる手つきだけは酷く優しい。それがこの上ないほど悔しくて、腹がたつ。
「シ、ズちゃんこそ死ね……っ」
ポケットからナイフを取り出そうと身動ぐがシズちゃんに阻まれて出来ない。
シズちゃんと違って衣服が乱れたままの俺は、未だ半ケツ状態で立ち尽くして、惨めやら悔しいやらの感情がぐちゃぐちゃになってしまっていた。
今すぐこの場で死んで欲しいのだが、崩れ落ちないようにシズちゃんの腕にしがみつく。

「シズちゃんなんて本当、早く死ねよ……っ」
「るせ。死ぬなら手前か先に死ね」

力一杯悪態をついたのだが、シズちゃんの怪力の前では無力に等しいらしい。全て吸収されて飲み込まれたように、身動きが取れなくなった。全身をシズちゃんが締め付ける。抱いてるんじゃない。締め付けているだけだ。物理的にも苦しいのに、肺一杯にアメスピの匂いが広がって更に息が苦しくなる。窒息寸前、酸素を求めるようにパクパクと口を動かすが、息ができない。息ができないから涙が出た。
「シズちゃんも……死んじゃえ」
肩越しに酸素を求める嗚咽混じりで呟くとシズちゃんは何も言わなかった。
ただ締め付けられる感触が苦しくて俺はまた喘いだ。


だから、ねぇ、



Fin