長編 | ナノ

 第047夜 襲来の目的



アクマは見てすぐ分かるくらいまでこちらに近づいてきた。青い空を黒く塗り潰しているかのように見える程、数が多い。
何故こんなにアクマが襲ってくるのだろう。クロス元帥の元へと行かせないための足止めだろうか。何にしてもこれは相当やばい気がする。
アクマの襲来に気づいた下の船員達もアニタの指示で砲撃の用意を始めた。


『イノセンス発動!!』


私は双燐を発動し、クルッとそれを回して構える。
改めて見ても数が多すぎやしないかと思う。エクソシストが6人揃っているとしても破壊するにはかなり時間がかかるだろう。
私は短剣の双燐を分裂させ、アレンと共に攻撃に移る。
適所に双燐を投げられたアクマはたった一発の攻撃でも次々に破壊されていった。だが数が多すぎていまいち手ごたえを感じない。
苛立ちが極限まで募ったところで私は双燐を鞘にしまい、背中の武器を乱暴に取り出した。
――試してみるか…
相変わらず鉄の塊のようにしか見えないそれ。実際の大きさは2、3倍といったところか。
私はそれを上へ振り上げると、でかい持ち手を掴む。


「何するんですか?」


私はアレンの声を無視し、風の流れを読む。
人が多くいるところで下手に使っていいものでは決してないが、これだけ数がいるのなら仕方がないだろう。
私は深く深呼吸する。


『封印“解”!目覚めろ、青嵐牙』


そう叫ぶと私の持つ武器が私を中心に竜巻を起こし始める。
あまりの勢いに周囲にいる全員が腕で顔を覆い、驚きに顔を歪める。
だがその竜巻は懺悔の嵐のような攻撃的なものではなく、自分にまとわりつく枷を外そうとするような髪を煽る程度のものだった。
数秒後、その武器は自身を固めていた鉄を弾き飛ばし、昔と変わらぬ姿で私の手の中にあった。鉄のコーティングが効いていたのか、それには錆一つなかった。


「フィーナ、それ…」


アレンが私が手にしている者を指さして言ってくる。
口で説明するよりも使った方が明らかに速いだろう。
私はニコッと笑うと、身を引いて構えた。


『アレン、頭下げて―――っ!』
「えぇ!?」


アレンがしゃがんだのを確認し、私は勢いよく肩を使ってそれを投げ飛ばした。


「ぎゃあぁあ!!」
「ぐあ゛っ!」


それはアクマを次々に引き裂き、私達の上からその残骸が降り注ぐ。その武器の回転はアクマの硬質ボディーをもろともせず、退かせる間も与えずにアクマ達を倒していく。


「い…一体何ですか、あのバカでかい手裏剣は…」
『主の意のままに空を巡り、旋風の牙で敵を引き裂く。私愛用の武器、青嵐牙』
「せ、せいらんが…?」
『そ。私がつけた名前。わりと殺傷能力も高いよ』


青嵐牙はアクマを何十体もバラバラに引き裂いたところで軌道を変え、私の元へと戻ってくる。


「フィーナ!向ってきますよ!」
『もう、分かってるって。よっと!』


私は器用に身をずらし、持ち手の部分をキャッチした。この動作も昔、幾度も鍛錬したから身体にしみついている。慣れたものだ。


『やっぱりキレ味最高だ。すごく使いやすい』
「何か豪快な武器ですよね。イノセンスよりそっちの方がいいんじゃないですか?」
『でもこれ破壊力抜群なのは魅力だけど、集中切らせないから結構神経使うんだ。イノセンスは手軽だからまぁどっちもどっちだね』


私とアレンは再びアクマを破壊しにかかる。
私は青嵐牙と双燐、両方を使って。


「…イノセンスじゃないんですか、あれ」


私が再び空中に放った青嵐牙を見て、アレンは言う。


『違うね。全く別物だよ』
「でもそれで破壊されたアクマの魂はちゃんと救済されてる。イノセンス以外の物質は魂を救済することはできないんじゃ…」


確かにそうだ。アクマの破壊と魂の救済はイノセンスしかできない。イノセンスはこの聖戦に用いることを唯一許されたエクソシストの武器なのだから。


『でもこれは魂を犠牲にしたりはしない。青嵐牙は自然の理を反しないようにできてるの。本当の敵以外の者に危害を加えることはない』


そう、何物にも干渉されないために他の物に一切の干渉をしない。真の敵以外を決して傷つけることはない。
もちろんこの武器はイノセンスではないが、アクマを破壊することは出来、魂も救済する。


『つ』


ザンッ!


『ま』


ザンッ!


『りー!』


ザンッ!


私は双燐でアクマを順々に引き裂き、二ヤリと笑う。


『私は今現在、自然の理に反しない代わりに、この聖戦のルールを大きく破ってるってわけ。使徒としてやってはいけないことをやってのけてるの』
「…全然そんな感じには見えないんですけど。ケロッとしてるし」
『だって全く悪いって思ってないもん。だってこっちの方が手軽だって思わない?第一、数では圧倒的にこっちが負けてるんだからそのハンデだよ、ハンデ』
「フィーナってハンデとか嫌いじゃなかったんですか?」
『面倒臭くなったらたまにプライドはどうでも良くなる』
「どんだけ軽いプライドなんですか…」


いや、そんな軽いわけでもないのだが、あちらがあんなに馬鹿げた数の敵を繰り出してくると真面目に戦うのがどうも馬鹿らしくなる。
倒せるならこの際何でもいいじゃないか、と我ながらぶっ飛んだ考えで私はアクマを切り裂いていく。


『……?』


私は違和感を感じてアクマ達を見る。


『……おかしい』


アクマ達の注意がこちらに向いていない気がする。
破壊を中断してよく見てみれば、アクマ達は私達に見向きもせず船を通り越していくではないか。
アクマは人間、特にエクソシストが大好物なはずなのに、真上を飛ぶアクマ達が私達に関心も向けず通り越していくことに、私は少々唖然気味になる。
どうやら狙いは私達ではないようだ。人間に目もくれないようなアクマ達にとっては価値あるもの…一体それは何だ。


「どうして…うあっ」
『え………え!?アレン何処!』


アレンの変な声に振り向くと、先程までいたはずのアレンの姿が消え失せていた。
周りを見渡して必死に探すが、何処にも見当たらない。下に落ちるなんて間抜けなことがあるわけないし、あったとしてもその姿は船にない。
まさかエクソシストだと気づいたアクマが連れて行ってしまったのだろうか。だったら何とか助けなければならない。


『ラビ!アレンがアクマに…』
「わぁってる!伸…」
「あーエクソシストがいるぞ!」


ラビに伸で追いかけるように促したが、私達に気づいたアクマがこちらに群がってきた。先程はこれでもかというくらい無視していたというのに、気付いたらこれだけよってくるとは。エクソシストはやはり上等な獲物なのだなと実感する。


『…まぁ今はそれどころじゃない…かっ!』


私は青嵐牙を自分の手に戻し、勢いを付けて群がるアクマに再び投げつける。こうなったらもう片っぱしから倒していくしかない。


『ラビ、アレンは後だよ!先こいつら倒す』


アレンはあれでもエクソシストの端くれだ。捕えられたところで自分で何とかするだろう。


「あっスゲ!人間がいるぞー!!」


下からしたアクマの声に顔を向けると甲板にいたアニタが狙われていた。


『アニタッ』


私は帆の部分から一気に飛び降り、甲板に着地する。


「大丈夫です!」


アニタは結界装置を発動させ、自分の身を守っていた。
だが結界装置はどれだけ丈夫なものであっても抑えられるのはレベル1のみ。2以上には時間稼ぎ程度にしかならないのだ。しかも、


「背後ガラ空きよーん」


アニタの背後をアクマに取られた。
私はすかさず双燐を投げようと構えるがその途端、何かがアクマを蹴り飛ばした。


「主には触れさせない」


見るとそれはマホジャだった。


『………スゲー』


アクマを蹴り飛ばすなど一体どんな人間だ。体格からして強いことは分かっていたが、ここまでやるとは思わなかった。
私は唖然としていた状態からハッとなり、双燐を構えなおす。


『アニタ、無理しないでいいから早く逃げて。ただの人にアクマは倒せない』
「でも…フィーナさん!」


アニタがそう言ったところで丁度レベル2に結界装置が破られた。


「死ね、人間んー!!」
『お前が死ねって』


アニタに襲いかかろうとするアクマの背後に私は回り、分裂させた双燐を一気に投げ当てる。
アクマは派手な爆発音を立てて爆ぜ、その残骸が降り注ぐ中で私は別のアクマの破壊を始める。


『私は大丈夫。マホジャ、アニタを連れてって』
「分かりました」
「フィーナさん…っ気を付けて!」
『分かってるって』


私はニコッと笑みを向け、マホジャに連れていかれるアニタを見送る。船から降りれば恐らくアクマの注意はそれるはずだ。
私は襲われそうになる船員を船から逃がしながら、襲い来るアクマを次々に切り裂く。
こんな状態では海上で襲撃にあったらひとたまりもないだろう。これからのことが本気で思いやられる。
私は軽く手を払い青嵐牙を呼びよせると、すぐ近くにいたラビと背中を合わせる。


「何て数だよ、こりゃ」
『無茶苦茶だね。絶対時間かかるよ』
「そうだなぁ…。んでも、フィーナは集中できねェっしょ」
『何で。集中力は人一倍のつもりだけど』
「アレンがいねェじゃん。落ち着いて戦えんの?」
『………』


無言になる私にラビが苦笑するのが分かった。


「何かと言いつつも心配なくせに。船はオレらに任せろよ」
『…いいの?』
「数か月も一緒にいたら隣にいないだけでも落ちつかねェもんだろ。こっちはジジイとクロちゃんもいるから大丈夫さ。行ってこい!」
『…ありがと。気を付けてね』


私は言い終わるよりも前に走り出して勢い良く船を蹴り、飛び降りる。
半秒間着地し、またすぐに走り出す。
――嫌な予感がする…
また季節風と逆向きの風が吹いているのだ。
自分の感覚全てが危険を通告する。
正直、この先走っても嫌なことが起きるとしか思えない。


『…でも、行かなかったらもっと嫌なことが起こる気がする』


やらないよりやって後悔する方がよほどいいだろう。どのみち後悔の結末であることは変わらないだろうが、少しでもマシな方を選びたい。
私は先程から怪しい光を発している谷間へと向かう。
何となく、そこにアレンがいる気がする。いつもは大外れな勘だが、戦闘時に冴えわたったそれは大体当たる。多分今回もアタリだろう。
私は谷間に向けて全速力で走り抜けた。満たぬ夕刻に空が赤く染まらないことを祈りながら。風に紛れて鴉の羽が降り注がないことを祈りながら。




第47夜end…



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