レストランareaの円卓を囲み、私たちはそれぞれ席に着いた。
ローズが手を二回たたく。
「スペシャルコース五名分だ」
【私の不思議な妖精さん 第二話】
「アズは話を聞いてるだけでいいからね」
コース料理のほとんどを華麗にスルーこと下げてもらい、最後のデザートが来るまでのあいだに、アズの紹介を終える。
アズにバラの花を差し出してたローズは、プリンに耳をつままれることで席に着いた。
「わかりましたわ」
アズはうなずいて、手元のシフォンケーキに丁寧にナイフを入れた。
「ねぇねぇ、おごり? コースはローズのおごりでいいのっ?」
プリンが目を輝かせてローズを見る。
「レディに財布を開かせるような教育は受けておらんよ、プリン。おまえがレディならな」
「ちょっと、それどーゆーことよ! 立ちなさい、勝負よ!」
「血気盛んなレディがどこにいる」
「ここよ! ここにいるわ!!」
ガタッと席を立ったプリンに、ローズはやれやれと肩をすくめてみせた。
「あのー、本題に入っていいかな?」
「もちろんです、ご主人様」
静かにフォークを口に運んだルナが、相づちを打ってくれた。
「とりあえず、プリンもローズも元気になってくれたみたいでホッとしたよ。ケンカできるくらいなら大丈夫だね」
「ケンカじゃないわ、決闘よっ」
「まあまあ、座りなさいなレディ」
「……ふんっ」
ローズがハンカチを取り出し、プリンの席に敷くのを見て、プリンは鼻を鳴らしながらドカッと腰掛けた。
「本題なんだけど……」
「リョウのことですね」
「うん」
ルナが話を進めてくれるらしい。
「リョウは魔石中毒と思しき症状で、オーブーンからも魔石パワーを吸い取った模様。イーターに一歩近づいたと思われます。このままリョウを野放しにしておくと、何をするかわからない状態であると共に、リョウの持つ目的についても謎であることが現状です」
それぞれがうなずく。
「ご主人様をお一人にしてしまったときに言ったらしい、魔石を捧げても神は復活しない、という言葉は、とりあえず鵜呑みにするべきかと」
「そうだね」
私が言葉を引き継ぐ。
「捧げるはずの魔石を力に変えて、身体や武器にため込んでるような感じ、であってるかな、ローズ?」
「そうだな、我らがが主よ」
ローズはナイフを置いて、私たちを見回した。
「あの力や耐久力は尋常ではない。おそらくは、魔石ラッシュを常に使っているのと同じか、それ以上の力がある。ついでに言うと、さらにその力を増幅させる気でいるようだ。何に使うかは知らないが……」
「そこだよねー。あいつのセーカク考えたらチカラなんて無縁なのに」
もぐもぐとケーキを食べながら、プリンが言った。
「そもそもだ。ふと考えてみたんだが、俺たちは魔石やイーターについてどこまで知っているんだろうか? 魔石は、神の眠る月より降り注ぐ万能の力であり、集め捧げ続けることで神が復活する。それを邪魔する存在がイーターである。ということしか知らないのではないか?」
「それもそーかも」
プリンが唇をとがらせる。
「今回リョウが魔石チュードクになって初めて、イーターとリョウが似てるってわかったわけだし。イーターと魔石の関係だって、ただイーターが魔石大好きで食べてるってだけじゃなさそうだし」
「力をつけるために魔石を食べる、みたいな?」
「そーそー! さっすがあるじぃ、わかってるー!」
プリンがハイタッチを願ったので、手をパチンと合わせてあげる。
「力をつけるために魔石を集めて身体に貯める。ってなると、やっぱりリョウの行動は謎だよね。力をつけて、リョウは何がしたいんだろう?」
「直接聞いてみるしかないんじゃなーい?」
「だが、リョウが次に現れそうな場所に心当たりはあるか、プリン?」
「うー、そう言われてみるとないかも……」
プリンの意気消沈に私も重なる。
「それに、邪魔しないで、って言われてるし、直接顔合わせるのも気がひけるんだよね」
「だからって向こうの言うとおりモタモタとしているわけにもいくまい?」
「わかってるよローズ。でも……」
「あの、少しいいですか?」
肩を落とした私に、隣に座っていたアズが口をひらいた。
「なぁに、アズ?」
「先程から話を聞かせていただいていたのですが……みなさま、そのリョウという方のことをどれくらいご存じなのでしょうか?」
「うーん……」
しん、と場が静まりかえる。
アズは心細そうに手を胸の前で合わせ、おずおずと話を続けた。
「まずはリョウさんのことを知るべきではないかと思います。そうすれば、わたくし、行き先に心当たりができると思いますわ」
「なるほど、一理あるな」
ローズはアズを見て、それから私を見た。
「我らが主よ。マスターとハンターの関係性について、どう思われる?」
「どう、って?」
いきなり問われてもすぐには出てこない。
マスターとハンターの関係性、関係性……出てきたのは、さっちゃんとルナの関係だ。私には手厳しいさっちゃんだけど、私以外の人には基本的に丁寧で礼儀正しいなぁと思う。
礼儀正しいと言えば、ルナはいつも敬語で、現実世界でも挨拶をちゃんとしたり氷砂糖にお礼をしたりと礼儀正しかった。
ふむ。
「似たもの同士、かな」
「なるほど、やはりか」
「なぁに、ローズはそんなこと考えたりすんの?」
「マスターがいない時は暇だからな。それなりに思索を巡らせる時間もあるってことだ」
ローズはルナに視線を向けた。
「おまえも考えたことあるだろう?」
「ええ、たまにですが。胸くそ悪い方だと思うこともあります」
「る、ルナ?」
「こほん、失礼」
口の悪さもさっちゃんに似てるのか……。
「そしたら、私、リョウのマスターと話してみるよ。そういえばちゃんと話したことなかったし、リョウのこと何かわかるかも」
「では私たちは、魔石やイーターなどについて、こちらで調べられることを調べておきます」
ルナがみんなの顔を見て、みんなはコクンとうなずいた。
「やることは決まったね」
私は立ち上がって、手を円卓の上に差し出した。
私のやりたいことを汲んで、みんなも手を出してくれた。
「リョウのことを知って、リョウを元に戻すぞーっ」
「おーっ!」
手を押して、意気投合させる。
さっそく現実世界に帰るために、私は桟橋に壁抜けしにいくのであった。
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あとがき
現実世界とオクターヴァを行き来する主人公。
身体に負担ないといいけどなぁ……。