私の不思議な妖精さん 第一話
「先輩お帰りす。さっそくすが、定職ついたらどうすか?」
「今ね、めっちゃそれらしいことしてるから待って」
 ノートPCを喫茶店に持ち込み、私は集中してタイピングしていた。



【私の不思議な妖精さん 第一話】



 今日は妖精さんが来ていないから、なんだか寂しいけれど静かで作業日和だ。

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・リョウの謎について
 なんでのほほんとした子があんな性格になってしまったのか?
→魔石中毒になったから。魔石中毒による万能感。
 きっかけ:コーヒーシュガー。
      浄化されてない魔石と同じ成分により、
      イーターの本能である、
      魔石収集に対して執着するように。
「魔石を集めて捧げても神は復活しない」?
 魔石を自分に使うことにより、戦闘能力を強化。
 リョウの次なる目的は? →謎。

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「……ふぅ」
 本当にそれだけだろうか?
 手をキーボードからコーヒーカップにうつし、私は息を吐いた。
 魔石中毒になって万能感を得たまでは理解できる。でも、それだけで、あんなことを言うだろうか?
『わかったようなこと言わないでよぉ! 弱いくせに、魔石の本当の使い方も知らないくせにぃ!』
 昨日の出来事がフラッシュバックする。
 何か、もっと別の何かがあるような気がするのは、私の思い違いだろうか。
「リョウのことが心配すぎて、昨日もあんまり寝られなかったしなぁ」
「さっきの話のことすか?」
「うん、そう」
 さっちゃんには、私がオクターヴァに行ってから帰ってくるまでのできごとをあらかた話した。さっちゃんは私の話を、珍しく真剣に聞いてくれた。
 大好きな妖精さんの件っていうのもあるかもしれないけれど、リョウに突き放されたショックが大きかった私にとっては、とても嬉しいことだった。
「所詮ゲームのことじゃないすか。そんなに気に病むようなことでもないんじゃないすか?」
「さっちゃんのそういう割り切れるところ、うらやましいよ……」
「別に……遊び方なんていくらでもあるってことす」
 そう言って、さっちゃんはスマホを机に置いた。
「そんなに気になるなら、会いに行けばいいじゃないすか」
「会いに、ねぇ」
 ショックを思い出して、私はため息をついた。
「そんな、おいそれとは会えないよ。リョウ、めちゃ強だし、また傷つけたくないし」
「傷つけたのすか?」
「いや、そう見えただけかもしれないけど」
「それだって、会って話さなきゃわからんじゃないすか」
「うぅ……」
 さっちゃんの言うとおりかもしれない。うじうじ考えていたって話は進まないのだ。
「でもだからって、どうすればいいんだろう?」
「会いに行けないのすか?」
「うん。話が通じるかもわからないし、そもそもどこに居るのかすら」
「アテくらいあるんじゃないすか?」
「アテ、か」
 私はわからないけど、妖精さん達は何か知ってるかもしれない。
 コーヒーを一気に飲み干して、私は席を立った。
「わかった。ちょっとみんなに訊いてくるよ。何かきっかけが見つかるかも」


 自宅に戻り、私は服のポケットから数センチほどの小瓶を出した。
 中にはキラキラとした魔石が数個入っている。
 中身に触れば、いつでもオクターヴァと現実世界を行き来できるって寸法だ。
「行くぞ、オクターヴァ!」
 私はコルク蓋を開け、魔石に触れた。


「今日もオクターヴァは賑やかだね」
 あちこちで踊る妖精さんや、倒れた妖精さんを踏む妖精さんが見られる。会話も弾んでいて、どこも楽しそうな空気に満ちていた。
「ルナたち、今日はどこにいるんだろう?」
 ルナもそうだけど、ケガしてたローズとプリンも気になる。現実世界に戻る前には意識を取り戻してくれたけど、その後は知らないし……。
 きょろきょろと辺りを見渡しながら歩いていると、ショップ広場の隅っこに座っている影を認めた。なんか気になるなぁと思ったら、座り方が他の妖精さんと違うのだ。
「どうしたの? あなた、一人?」
 体育座りしている妖精さんに近寄って、声をかけてみる。
「わたくしが見えるのですか?」
「えっ、どういうこと?」
 質問に質問で返してしまって、なんだか申し訳なくなってしまう。
 赤いずきんにひらひらのついてる赤いドレスを着た、くるりと長い赤髪の女の子。
 どこもかしこも赤い女の子は、無表情ながらどこか寂しげだった。
「わたくし、今マスターに操作されていないから、普通は見えないはずなのですわ」
「そうなの?」
「ええ。わたくし、アズといいますの。わたくしが見えるあなた、もしお時間がありますなら、わたくしのお話を少し聞いていってはくださいませんか?」
 アズは体育座りから横座りに体勢を変え、私を見上げた。
「私でよければ、きかせてほしいな」
 私は快くアズの話を聞いてあげることにした。
 アズにならって横座りで隣に並ぶ。
 アズは私のほうをちらっと見て、口をひらいた。
「わたくし、最近マスターに見放されてしまったの」
「えっ?!」
 突然の告白に、私は思わず声をあげてしまった。
「時間の概念がないオクターヴァで、いったい何日が経過してしまったのかわかりません。けれども、だいぶ長い間、わたくしはマスターに呼び出していただけず、ここに座っておりますの……」
「そうなんだ……」
 アズは目をうるませ、指であふれそうになっている涙をぬぐった。
「ギルドのお仲間はほとんどインしていらっしゃるから、わたくしのことは見えず、楽しそうにお話しされていらっしゃいますわ。だから、わたくしはずっとひとりぼっち」
「なんてこと……。かわいそうに」
 私はアズに相づちを打った。
「なんでマスターはアズを呼ばなくなったんだろう?」
 アズはしゃくり上げて、私を見る。うん、痛々しい。
「きっと、タウン2や3の、新しい子たちとっ……遊んでいるに違いありませんわ」
「タウン2、3?」
「最近できたシステムですの。新しいハンターがマスターにあてがわれるのです」
「そんなシステムがあるんだ。ってことは、ここはタウン1?」
「そのとおりでございますわ。わたくしだけではなく、他にもわたくしみたいに寂しい思いをしているハンターさんがいらっしゃるはず」
「そっか……」
 どうにかできないのだろうか。
「マスターには話しかけられないの?」
「ええ、あくまでわたくしたちはマスターに使われる身でありますから……」
 考える。アズみたいな子が寂しい思いをしない方法を。
 と。
「こちらにいらっしゃいましたか」
「ルナ」
 イキシアの広場から降りてきたルナが、私にペコリとお辞儀をした。
「ご主人様、そちらの方は?」
「ああ、あなたもわたくしのことが見えるの?」
「なるほど、マスター離れのハンターですね?」
「そのとおりでございますわ」
 ルナにもアズのことが見えるんだ。
「マスターのいない、または操作されてない子には見えるのかな」
 独りごちたあと、私は閃いた。
「そうだ! ルナ、この子のこと、ローズやプリンに紹介してもいいかな」
「よろしいかと存じます」
 ルナは私が何を言いたいのかすぐにわかったのだろう、快く承ってくれた。
「アズ、これからは寂しくなくなるかもしれないよ」
「本当ですの?」
 目をしばたたかせて、アズは私とルナを見た。
「うん! これから友達が増えるから!」
「本当ですの?!」
 ばっと立ち上がって、アズは私に握手を求めた。
「ありがとうございますの! これで毎日泣くこともなくなりますわ!」
 握られた手を握り返して、私はうなずいた。
「私もオクターヴァに来たときにはここに来るようにするから」
「ありがとう、ありがとうございますの!」
「お礼を言われるほどのことじゃないよ。ね、ルナ?」
「ええ。ーーご主人様」
 ルナはひとつ咳払いをして、私に向き直った。
「昨日の件について、今後のことを考えるべく招集をかけようかと考えております。レストランareaへ来ていただけますか?」
「私もそのことで来たの。行くよ。アズも一緒に来る?」
「えっ……よろしいのですか?」
 アズが不安げにきいてくる。
「もちろん。みんなも集まるだろうから、顔合わせできるしね」
「本当ですの? 嬉しいですのっ!」
 アズはキラキラリンと飛び上がって喜んだ。
 私は二人の顔を見て、うなずいた。
「よし、行こう、レストランareaへ」



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あとがき

 はじまりました、第三章。
 新キャラ・アズは今後どう絡んでくるのでしょうか?
 書き出した私にも分かりません。


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