私が不思議な妖精さん!?第九話
「主に剣を向けておきながら、一体どこへ向かうつもりだ、リョウ?」
 火柱立ち上る火山地帯、ローズはたたずむリョウに杖を向けた。



【私が不思議な妖精さん!?第九話】



「あれ、見つかっちゃいましたぁ?」
 リョウはおっとりと振り返り、坂の上からローズを見下ろした。
「探して見つからなければ、ただの無能だろう」
 杖を構えたまま、ローズは皮肉げに笑った。
「我らが主が身を案じていたというのに、貴様はおめでたいヤツだな」
「あるじぃ? 誰ですかそれは」
「……何をいってるんだ」
 怪訝な目をしたローズに、リョウは小首をかしげることで微笑みかけた。
「僕の主は今、オーブーン様ただ一人ですよぅ」
「なんだと」
 リョウは背負っていた大剣を取り出して、恍惚と見つめた。
「みてよぉ、これ。オーブーン様の言ったとおりにしたら、こんなに」
 刹那、一気に間合いをつめたリョウはローズをなぎ払った。
「強くなったんだよぉ!」
 とっさに身を引くが、ローズのフリルに傷が入る。
「ねぇ、もっと見てよぉ!」
 リョウの黒い着物の裾がひるがえり、足首がのぞく。
「ちっ……!」
(高低差も武器も不利だっ)
 ローズは二撃目を杖の柄で受けるも、柄はきしみを上げた。
(折れる!)
 何撃も受け流すうちにどんどん後ろに追いやられ、ローズは武器を変えざるを得なくなった。
 星のついた杖から、切っ先の鋭い大剣に切り替える。
「えーいっ!」
 リョウが両手で持った大剣を縦に振り下ろし、間一髪ローズはサイドステップで避ける。瞬間、頬を切り裂く空気の渦が、はるか彼方まで突き抜けた。
「すごいでしょお? ねぇねぇ!」
 大技の隙を狙い、ローズはリョウを切り上げる。しかし、リョウは重量のある大剣を軽々と振り、ローズの一撃を受け止めた。
 ローズは見る。刀身の輝きの違いを。明らかに、鍛冶屋で鍛えたのとは違う輝きを、リョウの大剣は宿していた。
「魔石の力を、剣に集中している、のかっ」
 はじき返された剣を振りかぶりながら、ローズはこぼした。
「それだけじゃないよぅ。ローズの目ってそんなに節穴だったのぉ?」
「せいやあああ!」
 ローズが力の限りに振った大剣を、リョウは片手だけで受け流した。
「イキシアに、オクターヴァに捧げる魔石の使い方を少し変えたら」
 リョウは受け流しざまの剣に力を込め、
「う、おぁっーー」
ギン、と嫌な音を立ててローズの大剣を飛ばした。
「ほらぁ、こんなに強くなった」
 すさまじい力で打たれてしびれる両腕を、だらりと前に下げる。
 リョウの剣の切っ先が、ローズの首元につけられた。
 下がるにも、後ろは溶岩の川。崖淵だった。がらがらと小石が崖を転がり落ちていく。
「リョウ、何が目的だ」
「目的? うーんとねぇ」
 そのときだった。リョウの後ろに黒い穴が出現する。
 リョウはそれを一瞥して、肩をすくめてみせた。
「ごめんねぇ、呼び出しがかかっちゃった」
「おい、待て!」
 ゆったりと踵を返すリョウが、大剣の切っ先をツンと上にする。自然、ローズの顎は上がった。
「くっ」
 リョウは、どこからか取り出した黒い狐面をかぶり、ローズに言った。
「君たちの主とやらに伝えてよ。
”僕の邪魔は許さない。邪魔をしたら今度は容赦しないから”って」
「……聞き留めた」
「よろしくねぇ。これから僕は、オーブーン様に全てを捧げに行くよぉ」
 じゃあねぇ、と言ってリョウは、黒い穴に吸い込まれるように消えていった。


「ーーということだ、主。面目ない」
「お疲れさまだよ。気にしないで」
 月明かりの元、座ってローズの話を聞いていた私は立ち上がった。
「わかったことは、リョウが危なそうなことをしてること、だね」
「ああ。魔石の力は奇跡の力だが、ある一定を越えると毒になる。恩恵を毒に変えないためにも俺らは、魔石をオクターヴァに捧げなければならなかったんだ」
「なるほど。つまり、リョウは今」
「完全に魔石中毒患者、というわけだ」
 ローズも私に合わせて立ち上がった。
「これから俺は、リョウの所へ赴こうと思う。一人では心もとないが、行かないよりはマシだろう」
「わ、私もいくよ! だってリョウ大事だもんっ」
 話を聞いた限りじゃ、めちゃくちゃ怖いけど。
「だが主は、こちら側の人間ではない。巻き込むわけには……」
「ちょーっとまった!」
 何もない空間からころんと現れたのは、ルナとプリンだった。
「やっと帰ってこられたよう……こっちでラッシュ使うと戻されるなんて聞いてなかったよ!」
「ご主人様、つかの間でもお側を離れたこと、お許しください」
「ルナはそんなに大げさじゃなくていいよ。で、プリンはどうしたの?」
「そだ! ローズに呼ばれてたから来たのよ。でワープホールの道中で聞いてたら、あるじがリョウと関係ないなんて話してるから!」
 プリンはきゅっきゅっとじだんだを踏んだ。
「関係あるも大アリよ! あるじ、リョウにだけ茶色い魔石砂糖あげてたでしょ?」
「コーヒーシュガーのこと?」
 私はプリンの剣幕に押されながらもうなずいた。
「そう、それ。さっき帰ったときに実はひとつくすねておいて、成分を調べてきたのよ。そしたらなんとっ、びっくりしなさいよ? イーターの腹から出てくる浄化されてない状態の魔石と同じ成分が入ってたの!」
「ほんと?!」
「それは本当? プリン」
 ルナの言葉に、プリンはえっへんとうなずいた。
「イキシアさんに調べてもらったからめっちゃカクジツ」
「つまり状況を整理すると」
 話し出した私に、みんなが向く。
「私があげてたコーヒーシュガーによって、リョウがヘンになっちゃったと」
「イーターみたいに魔石に強い興味を示すようになった、であってるね、プリン」
「そ。それで無差別に魔石を集めてオクターヴァに捧げないから、魔石中毒になった」
「魔石中毒になると、どうなるの?」
「万能感が得られるな」
 私の質問にはローズが答えた。
「ありあまる魔石パワーを自身や武器に投影することで、戦闘力も桁外れになる。そのかわり、命に関わるような傷を負っても平然としていられるなど、重篤な神経の麻痺症状が現れる」
「強い上に無謀になれるということです、ご主人様」
 ルナがローズの言葉をわかりやすくしてくれた。
「で、リョウに強くなる方法を教えたのはオーブーンってヤツで、これからオーブーンに”全てを捧げに行く”ところなのね?」
「ああ」
 ローズがピンポンとした。
「じゃあ私関係あるよ。知らなかったとはいえ、イーターに近づいちゃうようなものをあげてたわけだし。それに」
 私はみんなの顔を見た。
「リョウは私たちの大切な妖精さんだもの。マスターもいるし、マスターきっとリョウと遊べなくてさみしくしてるよ。
 リョウを、”こっち側”に連れ戻さなきゃ!」
 最初に首を縦に振ったのはルナだった。
「ご主人様のご用命とあらば」
「あたしはパス。強いんでしょ? そのリョウってやつ。あたし弱いもん」
「レディは俺が守るから心配するな、プリン」
「えっ、あたしもレディに入ってるの?」
「ルナも主も、俺が盾になろう」
「ねぇねぇあたしはっ?!」
「さてな」
 むきーっとプリンがローズの胸ぐらを掴んで揺すってるを見て、私は苦笑した。
「あははは、仲がいいんだね」
「そっ、そんなことないわよ!」
 ばっと身を引くプリンに、もうひとつ笑う。
「みんな、よろしくね。私にできることがあれば頑張るから」
 そして手を伸ばす。ルナが、プリンが、ローズが私の手に手を重ねる。
「絶対リョウを連れ戻すぞ!」
「おおおおおおーーーーー!!」
「イーターたちが来た穴がまだ開いてる。ここから行けばリョウに近いかも!」
「あたしいっちばんのりぃ!」
 プリンがトテトテっと走って穴に消える。
「はぁ、守ってもらいたいといいながら、彼女は……」
 頭に手を当ててため息をついたあと、ローズがそれに続く。
「ご主人様」
 ルナは私のほうを見て、
「何があっても、私がご主人様をお守りします」
力強くうなずいた。
「うん。ルナ、任せたよ」
「はい」
 私たちは隣に並んで、一緒に暗い穴へと入っていくのだった。



-----+---+---+-----
あとがき

 次話、対峙。



prev next
top

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -