私が不思議な妖精さん!?第八話
 暗い。
 月明かりだけに照らされた場所に、私たちは出た。



【私が不思議な妖精さん!?第八話】



 辺りを見回す。だだっ広くて固い地面に、何十メートルあるかわからない天井の高さ。
「ここ、本当に喫茶店、だよね……?」
 すこし歩くと、自分の背丈と同じ、見慣れた砂糖ポットが置いてあった。
 つまり。
「妖精さんの、まま……?」
 下を見ると、綺麗に拭かれた木の机に、自分の姿が映っていた。うん、まぎれもなく妖精さんだ。
「うう、戻れなかった」
 絶望。やっぱり現実はそんなに甘くなかった。
 どうやって妖精さんになったのかもわからないのに、現実世界に戻ってくるだけで人間に戻れるかもなんて。
「私ってバカだなぁ……」
「残念でしたね、ご主人様」
 ルナが隣でそっとなぐさめてくれる。ああルナ。
「今の癒やしはルナだけだよ……」
「あるじっ私を忘れるなんてひどいわ! 落ち込んだときは魔石よ!」
 そう言ってプリンは、砂糖ポットの蓋を外し、コーヒーシュガーを取り出して私に渡した。
「あ、ありがとうプリン」
 月明かりが、茶色い結晶をキラキラと輝かせている。確かに、魔石と似てるような気がするけど……なんだか、危ない雰囲気を感じる。
「リョウは好きだったみたいだけど、私は遠慮しておくよ」
 プリンに返すと、プリンもポットの中にそれを戻した。
「プリンは食べないの?」
「うん。だってなんかアブナイ感じするもの。いつものと違うし」
「プリンもそう思う?」
 そんな話をしていると、影から何かの叫び声が聞こえた。
 さっとルナとプリンが武器を構える。
 暗がりから飛び出てきたのは、剣を持った二足歩行の爬虫類だった。
「ジャブーン」
 ルナが相手の名を口にしたと同時に、敵はジャンプ切りでルナを急襲した。二体、三体と次々に出てくるジャブーンの群れ。
「あるじ、下がって!」
 プリンは杖をかかげて、赤いオーラを放った。ルナの身体が赤く輝く。
「プリン、ありがとう」
 ルナは飛びかかってきたジャブーンの剣を盾でいなし、
「カットラッシュ!」
懐の空いたジャブーンに素早い連撃をたたき込んだ。
 ギィ、と声をあげてジャブーンが倒れる。が、
「ルナ、右!」
敵の猛攻は止まらない。
 ルナはバックステップを踏んで、敵の攻撃を避けた。影からはまだまだ敵が涌いてくる。
 敵の隙をついてルナは次々と切り裂いていく。手数で押すも、敵の数が多く、やがて囲まれてしまった。
「ルナ、パス!」
 プリンはルナに向かって雷魔法を放つ。
 ルナが剣を頭上に振り上げると、なんと剣に雷が集中した。
「はぁああああ!!」
 四方からの攻撃を受ける前に、ルナは雷の付加効果がついた剣を構えて回転した。辺りに雷と剣の強力な波動が舞い飛ぶ。
 三者三様の悲鳴を上げて、ジャブーン達は倒れて魔石になった。
 一掃。
 しかし、影からはまだ、わらわらと敵が出てくる。
「これじゃ埒があかないっ」
 私の言葉に、プリンが叫んだ。
「ルナ、魔石ラッシュしよーよ!」
「了解っ」
 いったん身を引いたルナとプリン、そして駆け寄った私の三人は、それぞれの武器を合わせた。
「魔石ラッシュ、発動!」
 店の外の音や冷蔵庫の音がすっと消え、イーターと自分たち以外は全てモノクロになる。
 プリンは広い机の上を走り回り、敵を陽動する。
 背中を見せた敵に対して、ルナが一撃いちげき浴びせていく。
「ナイスコンビネーション! がんばれー!」
「まっかせなさーい!」
 プリンがこっちに向かって手を振ってくれた。
 次々と倒れていくジャブーンの群れ。
 同時に、私の中で、またピリピリとしたものがわき上がってきた。前に魔石ラッシュを使ったときも同じだった。
 それはだんだんと強くなっていく。
「く……っ」
 やがて全身がしびれるような感覚になって、私は身体を抱きしめて、両膝をついた。
「ご主人様?!」
 最後の敵を切り伏せたルナが、私の異変に気づいて駆け寄ってくる。
 ビリビリに耐えきれず、私は倒れてしまった。
 魔石ラッシュが終わり、暗がりの中にいろが戻る。
 目をつぶってるのに、頭がくらくらする。貧血の時みたいだ。
 肌の上を走るピリピリ感が、だんだんと弱くなっていく。
 しばらくすると、ぴぃ、ぴぃと笛のなるような声がした。
「あ、れ?」
 つぶやいた声がいつもより低い。
 閉じていた目をゆっくりと開けると、机に突っ伏している私の大きな手があった。
 これは、もしや。
 上体を起こすと、マスターのいない喫茶店がそこにはあった。ケーキの入ったショーケースだけ電気がついている、真夜中の喫茶店。
 私はオクターヴァに飛ぶ前の普段着の姿で、いつもの席に座っていた。
 人間の、姿で。
「うそ、戻れた……?」
 右手を確認、左手を確認。人間の、デフォルメされていない手。胸もある。太すぎる太ももも健在だ。
「もどれたあああ!!」
 思わずガタッと立ち上がる。
 ルナとプリンはいなくなっていた。魔石パワー切れだろうか?
 お砂糖切れと同じような感じなのかもしれない。
 考えてるうちに、ほんのり涙がにじんできた。これであの怖いイーター達と戦わなくても済むし、さっちゃんやマスターにも会えるんだ!
「ぴぃぴぃ」
 妖精さんの言葉がわからないのは、正直さみしいけど……。
 なんで元に戻ることができたんだろう?
 ていうか、いまの声は一体?
 理由を考えようとしたところでテーブルを見ると、いつもまにか新手の妖精さんがいた。金髪オールバックに三段フリルとマントのついた服。ローズだ。
 ローズは、私に向かって薔薇を差し出した。が、今はそれどころではないと言わんばかりにすぐしまい、キョロキョロと辺りを見回した。
「どうしたのローズ、何かあったの?」
 ローズはピンポンとうなずいて、杖から大剣に持ち替えた。その大剣を、私に向かってブンブンと振る。距離が離れているので全く当たらないあたり、何かを伝えようとしているようだ。
 大剣を振って私を攻撃しようとしている、人物?
「リョウ!」
 ピンポン、とローズが言った。
「リョウが見つかったの?」
 コクンとうなずいて、ローズは机の上を走り回った。
「はやくしないといけない?」
 また、ピンポン。
「でも、私いま人間に戻ったばかりで……いや」
 もう少しこのままでいたい、なんてわがままは二の次だ。
 もしリョウが危ない目にあってるのだとしたら、何ができるかわからないけれど助けにいかなきゃ。可愛い妖精さんのため、だけじゃない。リョウと、リョウのマスターたる喫茶店の主のため。
 なんとしても、リョウを助けなきゃ!
 問題は、どうやって妖精さんになるかだ。
 妖精さんは魔石パワーや砂糖パワーが切れて、オクターヴァに戻っていったらしい。すると、現実世界で魔石パワーをなくした私が人間に戻れたことに納得がいく。
 つまり、現実世界で魔石パワーに触れれば、またオクターヴァに戻ることができるってことか。
 あっちへ行ったときは、直前にペケブンから出てきた魔石に触ってしまったんだろう。
 ということは、今目の前に転がっているジャブーンから出てきた魔石に触れば。
「今、助けに行くよ、リョウ!」
 私はためらいなく虹色に光る魔石に触った。ビリビリと指先からほどばしる光が私を包み込みーー私はちょっとの浮遊感と共に妖精さんになった。今度はオクターヴァではなく、喫茶店にそのままいる。
 ローズが駆け寄ってきた。
「我らが主よ、よかったのですか?」
「リョウが大事だから。で、どうしたの?」
 ローズは私に向かって膝をついた。
「リョウがマスターの前に現れたという話を聞いてから、俺は各地を探して回っていた。そして俺はあるところでヤツと遭遇し、一戦交えた」
「リョウとっ?」
「ああ」
 よく見てみれば、ローズの服はところどころほつれている。致命的な傷こそ無いけれど、きっと消耗しているんだろうな、と感じた。
「主、たいへんなことになった」
 ローズは私を見上げて、こう言った。
「リョウは、オーブーンに魂を捧げる気だ」



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あとがき

 いったいこの後どうなるのでしょうか?
 次話へ続く!!



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