DRRR成り代わり短編 | ナノ
真っ赤な罪の歌

○○という名はいつから付けられたのか。
記憶に残らぬ程遥か昔の事だ。
私という個体の意識は永遠ともいえる時に流されていた。
私の名は何だったのか思い出せないほど気の遠くなる時間。
○○という名で私を統一される前は、たくさん名前があった。
この刀に私の意識が宿ったのもいつか分からない。
○○の存在意義・・・それは人を愛することだ
親が子を愛するように、もはやそれは当然と化して
個人個人の人を愛したいワケじゃない
人間の全てを愛したいのだ
ただ人を愛せれば満足だった
時代は移ろい、時は流れ、全ての物事が変わった




愛 愛し

 愛して
 愛してる   愛してる              愛してる        愛してる 
  愛してる  愛してる 愛してる愛してる 愛してる     愛してる 愛してる
愛してる 愛してる   愛してる 愛してる          愛してる    愛してる    愛してる      愛してる
    愛してる     愛してる      愛してる         愛してる    愛してる
愛してる 愛してる    愛してる  愛してる    愛してる 愛してる  愛してる      愛してる

   愛してる 愛してる 愛してる    愛してる   愛してる  愛してる     愛してる     愛してる
  愛してる        愛してる  愛してる                 愛してる          愛してる
 愛してる      愛してる  愛してる 愛してる    愛してる 愛してる      愛してる     愛してる

      愛してる      愛してる          愛してる              愛してる
愛してる        愛してる      愛してる  愛してる          愛してる

・・・寂、しい

「・・・え?」

夜遅くまで勉強に精を出していた園原杏里は、常日頃から欠かさず聞こえる愛の言葉の中から聞き慣れない言葉が紡がれたのに対し惚けた声が出た。
○○の心を感じ取ったのだ。寂しいという感情を。
(・・・聞き間違い?)
そうは思ったが『寂しい』という言葉を聞いてから愛の言葉は続かなかった。
シンとした空気。己の体に巣食う化け物の声が聞こえない。
部屋も体内も静かになった。
スラスラと問題の答えを流れるようにペンを進めていたのを中断し、勉強机にノートと教科書を隅っこに整理して置いておく。
そしてすぐ隣にある無機質なベッドに身を任せた。
少し沈むフカフカの布団。
ずっと体を動かさずにいたからかいつもより心地良く感じた。
そして、○○が宿っている左腕をもう片方の手で包み込んだ。
すると静かだった○○はいくつもの言葉を杏里に浴びせる。
いつも通りの愛の言葉の海。
その中に交じるのは、杏里の名前。
心底愛おしそうに杏里の名をなぞる声。
その声には幾度とない感情が込められていた。
感謝 悲哀 悲痛 悲嘆 怨恨 未練 懺悔
無念 快楽 悦楽 愉快 痛快 憤怒 激怒
これ以上挙げられない程の感情の渦。
杏里は更に左腕を右手と己の体を曲げ優しく抱き締める。
母親が癇癪を起こす子供を宥めるように優しく○○に声を掛ける。

「―――大丈夫、だよ」

根拠の無い無責任な言葉。
何が○○をここまでさせているのか分かっていない。
しかし杏里はその言葉以外○○を安心させる術を知らなかった。
○○は荒んだ心を落ち着かせたのか再度静かになる。
杏里はホッとしたように肩を竦めた。
良かった、と自然と声に出した。
○○も落ち着いたことだしこのまま寝てしまおうか。
丁度勉強も区切りがついたところだ。
明日の学校の用意はもう済ませてある。
昼食のお弁当の支度はまだだったが、それは登校中にパンでも買えばいい。
目覚まし時計をいつもより早めに設定し、部屋の電気を消す。
杏里は目を閉じる。
真っ暗になった視界。とろりと流れる睡魔。
横になり目を閉じるだけで眠くなる。
そこで初めて自分は疲れていたのかと気付いた。
ふ、と無意識に杏里は口角が上がる。
ああ、とても眠たい。

おやすみ、○○

杏里は返ってくるとは思わないが○○に声を出さず伝える。
そう言ったのを合図に杏里は夢の世界へと誘われた。


* * *


○○にとって、杏里はただの宿主ではなかった。
今までに何度も主は変わってきた。
その数は十や二十では足りないだろう。
いくつもの宿主達の中、杏里だけは何かが違った。
その何かが分からない。何なのだろう。
正体不明の感情。もやもやと霧散し広がる心。
だが、何故か心地がいい。
(どうしてだろう、なんでだろう)
疑問はいくつも出てくるが宿主の杏里が眠ったのだ。
騒げば杏里が起きてしまう。
○○は宿主の杏里が眠ったのに共鳴し自分自身も眠気に襲われた。
化け物の存在になっても、夢を見ることは出来た。
それに理論や説明は要らなかった。
杏里が寝るから私も寝る。それだけだった。

今日も返事を返せなかったな。
明日はぜったいに返すよ。約束するよ。
意識の無い杏里に、○○はとろとろとした声で囁いた。




『おやすみ、杏里』


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