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Suicide Girl
(自殺少女)





彼女は今日も死に続ける。生きながら何度でも死に続ける。飛び降りてぐちゃぐちゃになって死ぬ。焼けて黒焦げになって死ぬ。溺れてぶよぶよになって死ぬ。猛獣に噛まれ胃袋に収まって死ぬ。首を吊って呼吸を止めて死ぬ。銃に撃たれハチの巣になって死ぬ。どんな死に方をしても彼女は死ななかった。生きていた。死ぬことは到底敵わない。それを知りながらも彼女は死に続けた。死んだ後は必ず傷一つ残さず再生した。それが彼女たち“不死者”。死ねないことを知っていても、そうしていないと何かが自分の中の何かが壊れてしまうような気がした。どんな死に方をする時も必ず傍に寄り添っていた、笑顔が印象的な青年が僅かに眉を寄せ唇を噛めば、笑顔で「問題ないよ」と言ってみせた。そうしてまた新しい死に方を探して、繰り返す。時たま青年が止めてみても、「もう一回、もう一回だけ」と言って、死を試す。“もう一回”は何百回も何千回も繰り返されて、もう数えられないくらいになった。
「私は今日も死んでみます」
「もういいんじゃないか?」
「まだだよ。まだ。今日は息をとめてみるよ」
そう言って彼女は自身の首に縄を絡める。

不死者のなれの果て。“人間”としての死を追求する彼女は、研究者である黒髪の青年の瞳にはそう映った。「どうなったっていい」んだってさ。金髪の青年は久し振りに会う親友に彼女の言葉をそのまま伝える。同じ年頃であろう黒い髪の青年は呆れたように笑う。その目線の先では高い建物の屋上から飛び降りぐちゃぐちゃになった彼女が再生している所だった。再生を終えた直後彼女はやはり笑いながら「問題ない」と言う。そして、先刻飛び降りた建物よりも大きく高い建物を指差した。次はあそこから、と、彼女は走り出す。二人の青年は追うことをしない。「もう一回、」彼女は空を舞う。自由落下中のその顔は普通の人生を送っている人間と同じに輝いていた。いつだか金髪の青年は「私を殺して」と頼まれた。その行為に意味はない。だが彼女にとってはあったのだろう。それを誰よりも理解していた彼はその言葉の通りに刃物を彼女の心臓に突き立てた。蠢く血と、倒れた彼女を眺めて青年は笑顔を僅かに曇らせた。その時と同じに、血だまりの中心に横たわる彼女。その行為は何度も重ねられ、意味は果たして生まれているのか、本人以外には分からない。飛び散った肉片と血が蠢いているのを眺め、彼は口を開く。
「もういいだろう?」
「もう少しだよ。もう少しで何か分かると思うの」
二人が何も言わず見ている中、彼女はまた走り出す。まだ再生しきっていなかった血や肉が後を追った。

金髪の青年もその後を追う。彼女が駆け上がったのは長い長い階段。更に高い建物の、彼女は敢えてエレベーターを使わなかった。「もう一回、もう一回!」もう何百何千と繰り返した“もう一回”をまた積み重ね、彼女は走る。青年は後を追う。彼は知っていた。直接見なくとも、彼女が今綺麗な笑顔を浮かべている事を知っていた。そして辿り着いた屋上。躊躇いなく柵を越えた彼女の肩を、青年が掴んで引き止める。青年の笑顔はいつもと変わらない。ただ、少しだけ泣き笑いに近いものだったかもしれない。
「もう、いいだろ。君だって疲れたはずだ。だからそろそろ、笑おうか」
「うん。ありがとうエルマー、私今度こそ息をやめるよ」
エルマーと呼ばれた青年の右手が、彼女の頭を優しく撫でた。

fin.
10.0911.
はつねみくのろーりんがーるより。最後の解釈はみなさんにおまかせというか丸投げというか。



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