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「……なにやってんだ」

「静のグラサンかけてんの。似合う?」


なまえはそう言って笑う。正直なところ、俺が普段から使用しているサングラスを彼女が掛けても似合わない。サイズもあってないし、鼻の頭に辛うじて乗っかっているような状態だ。
いや、それよりもなんでなまえがここにいるんだ。素朴な疑問を口にしたら、暇だったから、だそうだ。普段の俺ならここでブチ切れるところだが、なまえを相手にすると何故か怒る気にはなれない。つか、少し出かけるだけだったから不用心にも鍵を掛けていかなかったのだが、もし閉まっていたらどうするつもりだったんだこいつ。いや、こいつのことだからずっと俺を待ってそうだな。

ふと、なまえは俺の手に下がっているものを見て口を開く。


「静ってばまたコンビニ弁当? 不健康だなぁ」


ビニールの袋に入っているのは確かにコンビニ弁当。いちいち作るのが面倒な時はこれを食ったり、カップ麺だったり。
中学からの付き合いである彼女は俺が一人暮らしを始めてから、それを見ると俺を咎めるようになった。身体に悪いだの何だの。一理はあるが面倒だ。


「台所借りる」

「は? なんでだよ」

「あんたの飯作ってやるっつってんの。ありがたく思いなさい」


俺が反論する隙もなく、なまえはサングラスを俺の定位置へと戻しぱたぱたと台所へ向かった。
視界は遮光され、俺には見慣れている青へと塗り込められる。

なまえが冷蔵庫を覗きながら内容量の少なさに文句を垂れている。その小さな背中も、青い。
あいつに、俺が普段見ている世界はどう見えたんだろう。全てが温かさを失ったように寒色でまとめ上げられた冷たい世界。もう慣れきっているけど、あいつの見ていた冷たい世界の中で、俺はどういう存在のし方をしていた?

俺は。
俺の見るこの世界の中のなまえは、それでも温かい色を持っている気がする。この遮光眼鏡を外して瞳に映るあいつは、眩しすぎるけれど。
そのままのあいつを見てると、どうして俺と一緒にいてくれるのかとか、どうして俺を怖がらないのかとか、どうして俺なんかに笑いかけてくれるのかとか、どうしてあいつには怒る気が起きないのかとか、色々考えてしまう。だから、一枚の薄い壁を隔てて―――遮光した上でなまえと接するくらいが、一番丁度いいんだ。





遮光





ふと遮光眼鏡を外した時、なまえが振り返り俺に対して笑いかけた。
俺は眩しくて、思わず目を細めてしまった。


(彼は気付いていない。それが、自らの微笑みだったことに)

END
08.1114.



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