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彼女は、嘘つきだった。
その少女は、自他ともに認めるほどの嘘つきだった。
彼女の言葉を信じてはいけません。何故ならそれは嘘だから。さも真実であるかのように紡がれる声は、一度も真実を語ったことはないのです。
だから、信じてはいけません。
どうか、彼女を信じないでください。
―――どうか、私を信じないでください
「大嫌い」
「おいおい、会っていきなりそれはないだろ?」
「大嫌いなものは、大嫌いなの」
「じゃあ、何でそんなに泣きそうな顔してるんだ」
―――あなたが大嫌いで仕方がないから
そう答えようとしたのだが、喉まで出かかった声は途中で飲みこんでしまう。
いつもの調子で言えばいいのだ。いつもの調子で、嘘を、
嘘、を、
「泣きたいくらいに、俺が好きなのか、なまえ?」
嘘、じゃなかった。
嘘を言っていたつもりだったのに、いつの間にか嘘を言えなくなっていた。彼に対して、いつからか本音で接していたなんて、考えたこともなかった。
なまえの唇からは、止め処なく言葉が溢れる。
「うる、さい。クレアなんて、大嫌いだ。世界中の誰よりも、クレアが嫌い。嫌いなんだ」
「ああ、知ってる」
温かい両腕に包まれて、その瞳から溢れる熱いものは何なのだろう。
「愛してる、なまえ」
「私は愛してない、クレアのことなんて」
噛み締めた唇から嗚咽のように零れ落ちる言の葉。
なまえはまるで人形のように、そのまま抵抗することはなかった。
彼女は嘘つきです
嘘しか口にすることはありません
その言葉に真実などないのです
だから
だから、どうか
どうか彼女を、信じないでください。
愛
を
紡
が
な
い
唇
いままでもこれからも愛を紡ぐことのない憎らしい唇
その唇を塞ぐのは、世界そのものであるべきか
終劇
08.0831.
極限天の邪鬼。
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