『美坂家の秘め事』61
「どこへ?」
「はい?」
(何これ…ネタ?)
くだらない冗談かと拓弥の顔を覗き込んでみてもふざけてる感じがしない。
「男と女…うんと…恋人?」
あまりこの話を引き摺りたくない気持ちの栞ははっきりと口にした。
拓弥の反応を見て栞はすぐに後悔する。
目の前の拓弥はポカンと口を開けてまさにあんぐりとしている。
「栞…俺とお前は兄と妹で家族なんだぞ?」
「そんなこと拓兄に言われなくても分かってる!!」
今さら拓弥の口からまともな言葉が出るとは思わず栞は声を荒げた。
「ならいいけど。怖いこと口にするなよ」
拓弥はため息を吐きながらポンポンと栞の肩を叩いた。
栞は叩かれた肩と拓弥の顔を交互に見た。
(何で?私が慰められてるみたいな図になってるの?)
「じゃあ拓兄は何の話してたの!?」
もとはといえば誤解させるような話を始めたのは拓弥の方だとようやく我に返る。
拓弥を責めることはあっても自分がこんな風にされる覚えはない。
「俺か?俺は…」
ここへ来て今さら拓弥は口ごもった。
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