『美坂家の秘め事』51

 ―コツン

 レジに人が立った気配がして栞は慌てて顔を上げた。

「いらっしゃ…」

 言いかけてポカンと口を開けた。

 栞を悩ませている張本人が目の前に立っている。

「何してるの!?」

「何って買い物」

 拓弥はカウンターに置いた缶コーヒーを指差した。

 突っ込みたい事はたくさんあるのに言葉が出て来ない。

「あーあとタバコ2箱ね」

 拓弥は特に気にする様子もなく付け加える。

(今まで一度も来た事ないのに!何考えてるの!)

 この前の事をハッキリさせたいとは思っていたけどまさかバイト先に本人が来るとは思いもしない。

 まるで予告なしに授業参観されてる気分だ。

「栞ー。ターバーコー」

 拓弥はコンコンとカウンターを叩いた。

 呆然としていた栞は慌てて拓弥の吸っているタバコを手に取るとピッピッとバーコードを読み取る。

 拓弥はすでに千円札をカウンターの上に置いている。

 栞は黙ってお金を受け取るとお釣りを渡してレジ袋に手を伸ばす。

「あーこのままでいいよ」

 そう言って拓弥の長い指が缶コーヒーとタバコを片手で掴む。

 顔を上げるのが恥ずかしくて俯いている栞には拓弥の腰の辺りしか視界に入らない。

 体の向きを変えたのを見てホッと体の力を抜いた。

「もう終わるんだろ?駐車場で待ってるよ」

 拓弥は立ち去る前にボソッと呟いて店を出て行った。


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