『美坂家の秘め事』137
「すげぇ、出た」
体を起こした拓弥は栞の中から自身を引き抜くと感心したように呟いた。
二回目の吐精にも関わらず、一度目と変わらない量を受け止めたゴムをティッシュでくるみ、ゴミ箱へ投げ捨てた拓弥は、まだ激しく胸を上下させている栞に視線を落とした。
さっきまで快感で高められていた体からは甘い匂いが立ち上っている。
それが男の本能をくすぐる匂いだということは、反応を示す自分の体ですぐに気が付いた。
「栞……大丈夫か?」
「…………ん」
やや間があってから小さな相槌が返ってきた。
栞は頬を撫でられていることに気付くと重い瞼を持ち上げ、焦点の合わない瞳をしばらく彷徨わせてから自分を見つめる瞳を捕まえた。
「拓兄……」
優しい瞳に栞は思わずフニャと笑った。
セックスの後、こんな視線を投げ掛ける男は今までいなかった。
だからこそ拓弥と体を重ねることは新鮮で心地良く、実の兄ということが背徳的なのになぜか安心感があった。
栞は甘い気だるさに体を委ねていたが、突然ハッと思い出したように目を見開いた。
「そういえば……さっき外で音がしなかった?」
「ハァ?」
突拍子もない栞の言葉に拓弥は呆気に取られた。
拓弥もまたセックスの後の甘い時間に浸っていただけに妙に現実的なその言葉に少々ムッとしながらドアの方へ視線を滑らせる。
(外で音…………?)
まさか兄弟のどちらかが帰って来たのか?
拓弥はそう思ったがすぐにその考えは打ち消した、だいたいもしそうだったとしたら二人がこんな事をしていたら踏み込んで来ないはずがない。
直弥なら終わるまで待つ……なんてお人よしの面を見せそうだが、栞命の優弥なら踏み込んできて喚き散らし大騒ぎになっているはずだ。
「してないだろ」
自分の中で結論を出した拓弥は栞の言葉を否定した。
「そう、かなぁ?」
そう言われても納得いかないらしく、栞はチラチラとドアの方ばかりを見ている。
すっかり興が醒めてしまった拓弥は小さく息を吐くとベッドから下りドアへと近付いた。
拓弥は何の躊躇いもなくドアを開けると、顔を廊下へと突き出して辺りを見渡してから、少し大きめの声を出した。
「直弥ー! 優弥ー! 帰ってるのかー?」
拓弥の大きな声が階段に響いた。
その様子を栞も体を起こして心配そうに見守り返って来る声はないかと耳を済ませた。
(こんなことバレたら……大変なことになる……)
兄と妹で体を重ねる、そこに特別な恋愛感情がないとはいえ……これは認められるような行為でないことは十分分かっていた。
二人を突き動かすものが恋愛なのか度の過ぎた家族愛なのか、二人にも分からない。
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