愛情表現 【7】
それから月日が経って憲ちゃんとの溝が開いたような感じになった。
憲ちゃんはフリーのプログラマー。
仕事がある時とない時と差が激しくて今はあまりうまく行ってないんだと思う。
携帯が繋がらないから。
ブブブ…ブブブ…
「あ、この番号」
登録してない番号だったけど市外局番からして憲ちゃんのいる街。
「ごめん、携帯止められてる」
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないかも?」
「どーするの?」
「んー、ちょっとさすがにヤバイかも。新しい仕事入ったけど給料すぐにもらえないしね」
そうだよね…。
「んでさ…お金貸してくんない?」
え?
久々に聞いたセリフは憲ちゃんの口からだった。
「じゃないと家の電話も止まる。必ず返すからさ、ごめん」
「憲ちゃんも智と一緒じゃん」
「何その言い方」
「好きって言わないくせに、こういう時だけ和美にお金貸してって。同じでしょ?」
「もういいよ。今の忘れて、たぶん電話すぐ止まるから連絡出来ない」
「しばらく連絡取れないから」
「取れるようになったらすぐ連絡して?」
「いつになるか分からない仕事上手く行くかわかんないし」
「寂しい言い方だね」
「あのさ、俺に今そんな余裕あると思う?」
「だって…」
「どうしようもなくて、恥を忍んで彼女に頭下げたのに、あんな奴と一緒にされて、俺の気持ち考えてくれた?」
そうだ憲ちゃんはいつだって愛情表現は少なかったけど傷つけたり利用するような事は一度もなかった。
「お金…いくらいるの?」
「もういいよ。自分で何とかする。」
「でも電話止まったら話出来ないから寂しい」
「仕事でそんな暇ないし丁度いいよ」
「どうしてそんな言い方するの?」
「だって俺今こんなだし、和美の期待してる事今は言えないから」
「待ってるから」
「俺、待っててとか言わないよ」
「待ってるから」
それが最後の電話だった。
それから一ヶ月、二ヶ月、三ヶ月…
電話が鳴る事はなかった。
電話が繋がる事もなかった。
憲ちゃんの事待てないかもと思い始めた頃無理矢理行かされたお見合いで信也さんと出会った。
優しい言葉側にいる安心感に結局私は憲ちゃんを待てなかった。
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