『番外編』
月に一度の日曜日【5】

「片付けまでしてもらっちゃって、本当にありがとうございました」

 舌足らずな声で頭を上げた麻衣の顔はほんのり赤い。

「いやいや。押しかけちゃったのはコッチの方だしね。それより大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です」

 彰光の視線が奥へと向けられると、麻衣は問題ないとニッコリ頷いた。

「じゃあ、またね」
「はい。気をつけて帰って下さい」

 もう一度、頭をペコリと下げて最後に玄関を出て行った誠と彰光の後ろ姿を見送り、いつものガランとした玄関で自分と陸の靴を揃えて施錠した。

 いつもより火照る頬とフワフワとした足元、さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返った部屋を横切り、小さな明かりだけが灯る寝室へと足を運んだ。

「りーく、大丈夫?」

 ベッドサイドの明かりに照らされて陰影を作る陸の顔もほんのりと赤い、麻衣がベッドの上に上がると瞼が震えてゆっくりと開かれた。

「誠さんたち、今帰ったよ」
「そっか」
「気分はどう?」
「んー? 平気だって。こんくらい。オレ、ホストだし。麻衣、こっちおいで」

 いつにもまして甘い声で呼ばれる。
 陸の隣に座っていた顔を覗き込んでいた麻衣は、腕を広げておいでおいでとやる陸の身体を跨ぐと、苦しくさせないようにと気をつけながら寝そべった。

 ぴったりと身体を重ねて顔を覗き込むと、広げられていた陸の手が麻衣の背中と腰を優しく抱いた。

「ふふっ、陸、お酒の匂いする」
「麻衣も。んーでも、麻衣はキャラメルの味もする」

 まるで犬のように舌を伸ばして麻衣の唇を舐める陸。
 さっき食べたエクレアの名残りをスンスンと鼻を鳴らして確認され、麻衣は唇を開くと未だエクレアの味が残っているかは怪しい舌を出す。

「食べちゃう?」
「食べて欲しいの?」
「うん。食べて」

 唇を触れ合わせたまま囁き合ったのも束の間、どちらからともなく舌を絡めると麻衣は蜂蜜色の髪に指を通す。

「んっ……ふっ、あっ……」

 舌が絡み合う音も恥ずかしく感じないほど熱に浮かされた麻衣が、陸の顔を両手で挟んで耳を愛撫をして首筋を舐めると、背中を往復していた陸の手がレギンスの奥へと入り込んで、薄い布越しに柔らかいけれど弾力のある双丘を揉んだ。

「んふっ、ちょっと、まーーって」
「んー? やーだ」
「あんっ、もう、ちょっとだけだから」

 離さないと主張するかのようにギュッと掴まれて、蕩けた声を漏らした麻衣は宥めるように陸の鼻先にチュッとキスをすると、その体勢のまま器用にレギンスを脱いでいく。

「んー、これはー?」

 素肌を晒した麻衣の太ももを撫で上げて、陸が薄い布の端を指で引っ掛ける。
 ゴムの部分に引っ掛けて指を離せばパチンと肌を叩く音に、麻衣は子供にするように人差し指を立てて「メッ」と唇を突き出した。

「じゃあ、オレもー」

 麻衣の体の下でゴソゴソと動くと、二人は何も纏わなくなった足を自然に絡めて、中断していたキスと愛撫を再開させた。

 滑らかな太ももを撫で上げて布の下に指を忍び込ませるとキスを深くする麻衣が腰を揺らして、二人の体の間で硬さを増していたモノがさらに存在を主張する。

「あ……っ、りくぅ……ん」

 布の下を行き来していた陸の指が、なだらかな双丘から太ももではなく足の間へと伸びていくと、夢中になって舌を絡めていた麻衣が身体を震わせた。

「熱いし、もうトロトロ」

 器用な指先がぬめりを捉えると、奥には進まずに小刻みに動かして音を鳴らす。
 キスを続けられなくなっていた麻衣がシーツの上に頭を落として、目の前にある耳に舌を伸ばして甘く誘う。

「ねぇ、りーく」
「んー」

 少し気だるげな陸の声と緩慢な動きになる指先に焦れて、麻衣は自ら腰を揺らして硬く張り詰めたモノを擦る。

「はやくぅ」
「んー……」

 熱く潤んだ場所が切なくて、手で支えるように身体を起こした麻衣は、腰の辺りを跨いで濡れた下着を穿いたまま、大きく盛り上がっている場所に押し付けた。

「あんっ」

 クチュッという音とともに、下着越しでも分かる陸の熱さに触れている場所から、情欲が一気に駆け上がり肌を粟立たせた。

「ねぇ、早くぅ…………りくっ……んっ」

 下着が汚れるのも構わずに、陸の胸に手を置いて夢中で腰を押し付けていた麻衣は、ようやく異変に気が付いた。

「……陸?」

 腰を動かすのを止めて首を傾げて見下ろした陸の顔は瞼がしっかりと下ろされている、それは快感に酔いしれているという表情ではなく、とても穏やかで満ち足りているともいえる。

 嫌な予感に麻衣は眉を顰めた。

「もしかして……」

 確認するまでもなく、すぐさま聞こえて来た静かな寝息と、ゆっくりと上下する胸元に、それ以上は口にしなかった。
 何も言わず陸の体から下りると、さっきまで気にならなかった下着の汚れが急に冷たさを持って不快感を感じてしまう。

「おやすみなさい」

 置いてきぼりにされた恨めしさを声を滲ませて、気持ち良さそうに眠る陸の鼻をギュッと摘んでから寝室を後にした。



 月曜日、午前9時。
 朝のニュース番組で北の大雪もようやく峠を越えたと伝える音を聞きながら、冷たい空気と暖かい太陽の陽射しを受けて洗濯物を干していた麻衣は、ドタバタと大きな音を聞いた。

「麻衣ッ! 麻衣ッ! 麻衣ッ!? 麻衣、どこーーー!?」

 朝から大声を出して部屋中を駆け回る陸の様子がベランダからも見えた、あまりに切迫した陸の様子に洗濯物を干していた手を止めて、顔だけを窓から覗かせて声を掛けた。

「ここだよ。いったいどうしたの?」
「麻衣ーーーーッ!!」

 廊下の方へと駆け出そうとしていた陸は、音がするほど勢いよく振り返ると風のように駆けて来たかと思うと、窓にぶつかるんじゃないかと思うほどの勢いのまま土下座をした。

「り、陸っ!?」

 突然の陸の行動に驚いていると、陸は構わずに床に額をこすり付けると、爽やかな朝には似つかわしくない大声で叫んだ。

「昨夜はごめんなさいっ!! 中塚陸、一生の不覚!! 据え膳、しかも酔っ払ってエロエロの麻衣だったのに!! チクショー、オレのバカッ!! そういうわけで、是非とも今からリベンジさせ――」

 朝の9時、大きく開かれた窓のすぐ側で喚く陸に、干そうとしていた洗濯物を力いっぱい握りしめると、勢いよく窓をピシャリと閉めた。

「麻ーーー衣ーーー!! ごめんてばーーー! 今日こそは頑張るからーー!」

 情けない声で見当違いの謝罪をする陸を無視して、続きをと再開させて握っていた洗濯物を開くと、それは奇しくも昨夜一人で汚した麻衣の下着だった。

end
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