『番外編』
Another one3

 麻衣の父、竜之介はホストクラブやバーなど三店舗を経営している。

 数年前までは自身も店に顔を出していたが、一線を退いた今は後進の指導と経営に専念をしていた。

 幼なじみの奏太は高校を卒業すると同時に、東京の大学へと進学した。

 夢は教師だと言っていたはずなのに、この夏に戻って来た時に麻衣は奏太の姿を見てショックを受けた。

 教師の姿からは程遠い、金髪に派手なスーツを身に纏い、派手な車と派手なアクセサリー、歌舞伎町のホストになって帰って来た。

 いや……奏太の言葉を借りるなら元ホスト、こっちに戻って来たのは竜之介に引き抜かれたからだと言う。

 今は三軒のうちのダーツバーを任されている。

「いいから、着替えて手伝ってよ。お昼にポテトLサイズのセットにナゲットも付けるからー」

「俺はなぁ……そんな安い男じゃねぇんだ」

「じゃあ……シェイクも付けるよ。Mサイズ」

「…………ったく、しょうがねぇなぁ」

「うわっ、安っ! シェイクで動いたー」

「お前なぁ、頼んで来たのはお前の方だろうが」

 茶化す麻衣に奏太は目を吊り上げ、窓を閉めようとする仕草を見せた。

「もうごめんってば! よろしくお願いします」

「はいはい。じゃ、後で」

 奏太が片手を上げながら返事をして窓を閉めるのを見届けると、麻衣はようやく助っ人が出来たことに安堵した。

 散らかった部屋をぐるりと見渡して、頭の中で家具の移動をシミュレーションする。

(これでもかなり処分したのにな……)

 実家に戻って来て一年が過ぎた。

 就職するまで住んでいたはずの自分の部屋なのに、戻って来て狭さに驚いた。

 持って帰って来た荷物で溢れかえっていた部屋も不用品の処分を繰り返し、季節が一巡りしてようやくここまで来た。

(なかなか……捨てられないな)

 視界に入ったオレンジ色の蓋のクラフトボックスが目に留まり思わずため息が零れる。

 ここに帰って来てから一度も蓋を開けていない、開けてしまうとそこに詰めた気持ちも溢れてしまうのが怖いからだ。

 開けることも捨てることも出来ず、中途半端に所在なさ気に部屋の隅に置いてある。

 邪魔なのに捨てられない、ただ置いてあるだけなのに気になって一日一回は視線を留めてしまう。

 それが自分の心そのものだと気付いていても、だからといってどうすることも出来ない。

「もう一年なのに……」

 考え始めるとまたため息が出そうになってしまう。

 麻衣は顔を上げると背筋を伸ばし、自分の両頬を手でパンッと力を込めて張った。

「掃除! 掃除! 頑張るぞーっ! オーッ!!」

 麻衣は一人で気合いを入れ直すと、再び大掃除兼模様替えを再開させた。


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