『番外編』
Another one1

 12月最初の週末、天気は快晴で暖冬の予報通り、11月中旬のような暖かさだった。

 スキー場や暖房機器メーカーなどが頭を悩ませる一方で、暖冬をありがたいとばかりに朝から張り切っている人もいる。

 まだ緑が多く残る郊外の住宅地、朝から賑やかな家がある。

 週末ならもう少しゆっくりしていたいと思う近所の住民は何かが崩れる音を布団の中で聞いた。

「あ……いたた……」

 崩れて来た本の山に思わず尻餅をついた麻衣は身体の上に落ちて来た本の山に押しつぶされていた。

「やっぱり……本を抜いてから動かすべきだったかなぁ」

 半分ほど抜いて持ち上げることが出来るようになった本棚を無理矢理に動かそうとしたことがいけなかったらしい。

「麻衣っ! どうしたの!?」

「あ……お母ちゃん、本棚動かそうとしたら本が崩れて来ちゃっただけだよー」

 物音を聞きつけて駆けつけたのは麻衣の母親の美紀、洗い物の途中だったのか手は濡れたままで部屋の惨状を呆れたように眺めている。

「なぁに……また模様替えするの?」

「んー大掃除のついでにと思って……アイタタ……腰打ったぁ」

「女の子なんだから、重たい物持ったりしないでちょうだい」

「でもお父ちゃんまだ寝てるでしょー?」

 麻衣はヨイショと崩れた本を片付けながら、部屋の入口に立っている美紀の顔を見上げた。

「俺はあんなでかい音を立てられて寝てられるほど図太くねぇぞ」

「あら、竜ちゃん。おはよう」

「おはよう、美紀」

 まだ眠いと大きな欠伸をしながら起きてきたのはこの家の主、田口竜之介(通称:竜ちゃん)麻衣の父である。

 二人は娘の前でも当たり前のように唇を合わせて軽いキスをする、それが田口家では当たり前の光景。

 イイ年していまだに挨拶のキスを欠かさない両親の姿に麻衣は嘆息した。

 床に散らばった本をすべて拾い上げ、部屋の隅に積み直すと部屋の入り口で朝から仲睦まじい両親に向き直った。

「お父ちゃん、起きたんなら手伝ってー」

「模様替えってなぁ……お前何度やったら気が済むんだ? この前やったとこだろう、俺の腰を酷使するな。俺はまだまだ現役でいたいんだ」

「もう……やーねぇ、竜ちゃんったら」

「…………」

 いつまでもラブラブという言葉がしっくり来る、美紀が恥ずかしそうにはにかめば竜之介はその顔を楽しげに眺める。

 さすがに弟か妹は出来ないだろうとは思っているけれど、この両親ならありえるかもしれない。

「ハイハイ、イチャイチャするなら別の場所でお願いしますっ! 今回は年末の大掃除も兼ねてるの! いいよー他にも頼む人はいるんだからっ」

 一抹の不安を抱きながら麻衣は両親を部屋の外へと追い出した。


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