『番外編』
雨の日は生徒会長室で8
外では雨が降り続いている。
強くなったり弱くなったりする雨音を聞きながら貴俊は祐二の頭を膝の上に乗せていた。
用意周到に準備されていたウェットティッシュで全身を綺麗にされ、最後は男性用のデオドラントシートで拭き上げられた祐二は全身の疲労感にウトウトしていた。
茶色がかった髪を撫でる貴俊の手はいつも通り優しい。
このまま寝てしまいたい衝動と戦いながら祐二は今にも落ちそうな瞼を持ち上げた。
「この……ヘンタイ会長」
「それはもう聞き飽きたよ」
「お前が自覚するまで何度だって言ってやる」
「そうなの? でも……自覚しても、やることは同じだと思うよ」
すでに自覚しているとでも言いたげな貴俊の口ぶりに祐二は呆れたようにため息を吐いた。
今までの人生において祐二が口で貴俊に勝てたことは一度もない。
冷静に話をしようとしても気が付いたら一人で喚き散らしているのは祐二ばかりで貴俊はいつだって自分のペースを崩さない。
「お前の焦る顔が見てみたい」
「えー? 結構見てると思うけどな」
クスクスと笑いながら答える貴俊にまた祐二の口はへの字になる。
「そういう余裕ありますって面が気に食わねぇっ」
「余裕なんかないよ。いつだって必死」
「うそつけ! いっつも涼しい顔でテストで一番取るし、部活も生徒会もどれも完璧にやってんだろ」
いつも興味のないふりをするくせに、実は見ていると告白しているような祐二の台詞に貴俊がふわりと笑った。
「そんなのはどうってことないよ」
「お前……また、そういう……っ」
「祐二のことだけは無理。どんなに必死になっても不安ばっかりだよ」
「貴……俊?」
「せっかく祐二が俺の腕の中にいるのに、両想いになってからの方が怖い。また……片想いになったりした……」
「寝る!」
「祐二?」
「少し寝る!!! お前が無茶苦茶して疲れたんだからな、罰としてお前は俺の枕になってろよ!!」
上を向いていた祐二はプイと身体を横に向けて目を閉じた。
寝ると言ったわりには閉じられた瞼はかなり力んでいる。
「余計な……心配してんな、バカ」
「祐二?」
小さな小さな囁きに思わず聞き返した貴俊は祐二を乗せた足が熱くなるのを感じた。
「何も言ってねぇ! 寝言だ、寝言!! 別に俺が言いたくて言ったんじゃねぇんだからな!!」
「そっか。じゃあ……俺も少しだけ、寝ようかな」
貴俊は嬉しそうに目を閉じた。
「ずっと、ずっと……好きでいて欲しいな」
小さな呟きは強くなった雨に掻き消されることなく祐二に届いた。
返事はなかったけれど貴俊は手に触れた熱さに口元を緩め、触れてきた熱い手を掴まえた。
君がいる世界はいつだってこんなにも優しい。
end
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