『番外編』
雨の日は生徒会長室で1
窓の外では朝から降り続く雨が校庭に水溜りを作り、昨日まで廊下を流れていた乾いた空気は身体にまとわりつくような不快感のある湿った空気に変わっていた。
私立青稜学園特別教室棟の三階、誰でも入室が許されているわけではない小さな部屋。
ドアの入り口の上には『生徒会長室』のプレート、部屋の主がいることを示す『在室』の札も掲げられている。
生徒会関係者のみが入室を許されているはずのその部屋で、我が物顔で応接セットのソファに転がっている男子生徒、その人物こそが部屋の主……ではなく部屋の主が特別に許した唯一の存在。
「祐二、あと30分くらいで終わるからね」
窓に背を向け大きな机に広げられた書類に視線を走らせていた部屋の主、青稜学園の現生徒会長の篠田貴俊は返ってこない返事に顔を上げた。
視線の先ソファの上で身体を丸め寝息を立てるのは、すべてにおいて学園一と噂される生徒会長を十ン年来虜にし続ける男、東雲祐二。
本人はまったく、これっぽちも、微塵も……どの言葉でもいいが虜にしようなどという意思はない、だが……今も寝ているだけにも関わらず貴俊の視線を縫い留めてしまっていた。
夏の制服の白いポロシャツの裾は大胆に捲れ上がり、焼けていない肌に散った赤い痕を惜しげもなく晒している。
しばらくジッと見つめていた貴俊は一度目を閉じて何か考える素振りを見せると握っていたペンを置いて立ち上がった。
迷いの無い足取りでソファの傍らまで歩み寄ると、膝を付いて身体を屈め目を細めて愛しい祐二の顔を見つめた。
「こんな所で寝たら風邪引くよ」
校内の誰もが聞いたことのない優しい声で話しかけ、伸ばした手は捲れ上がった裾から覗く白いわき腹へと伸ばされた。
「……んっ」
貴俊の手が滑らかな祐二の肌をスルッと撫でると眠っていた祐二の口から声が漏れた。
しっかりと閉じていた瞼が細かく震えているのを見ながら貴俊はその手をゆっくりと上へ上へと滑らせていく。
視線に晒される肌が徐々に露わになっていくにつれ、貴俊の瞳はますます熱を帯びその手は大胆に祐二の肌を弄った。
「んっ……、んんぅ?」
身体をぶるりと震わせた祐二は瞼をゆっくりと持ち上げ、ボンヤリとした瞳で宙を見つめて再び目を閉じると次はパチッと目を開いた。
「なっ、ななななな……」
アーモンド形の大きな瞳を何度も瞬かせて黒い瞳が貴俊の顔の上で止まると祐二は唇を震わせた。
そんなことにも動じない貴俊は肌の上に置いた手はそのままでニッコリ微笑んだ。
「おはよう、祐二」
「な……にしてんだ?」
「ん? こんな所で寝てたら風邪引いちゃうから起こしてあげようと思って」
寒すぎない適温の空調の中でそんなことはありえない、分かっているはずの貴俊は心配そうな顔で真面目に答えた。
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