『番外編』
節分2010【1】
一日中顔を出していた太陽が雲をオレンジ色に染めながら西へ沈み、夜がゆっくりと歩み寄り始めた頃。
薄暗くなった室内に紙を捲る小さな音、ベッドに腰掛けて窓に背を預けている祐二が今日発売のマンガ雑誌を捲っている。
「祐二」
「んー」
「もう暗くなって来たよ」
「そだなー。電気点けてくれよ」
顔も上げずページを捲る指が止まることもない。
俺が動いてもそのことに気付いていないのか、時々笑いを漏らしてマンガに夢中になっている。
明日は体育がないからいいかな、なんて朝から考えている俺の胸中なんて気付くはずもない。
「祐二……今日は母さん少し帰りが遅くなるんだって」
「んー」
「雅則はバイトだしね」
「んー」
「今朝の話、いい?」
「んー」
絶対聞いてない、適当に返事をしていることくらい分かっている。
分かっていてて先に進めようとする俺も俺だけど、やっぱり二人でいたら触りたいって思うんだよね。
隣に並ぶように腰掛けてマンガに夢中の祐二の耳元に唇を寄せた。
「祐……祐二」
「うわぁっ!! ちっ、ちけーーよっ!」
ようやく俺が側にいることに気が付いた祐二は驚きで手からマンガを落とし身体をのけ反らせた。
落ちた雑誌を拾いそのままベッド脇に置いてある棚に載せ、ジリジリ後ずさりを始める祐二の手をベッドに縫い留める。
「マンガは後でも読めるでしょ? 今しか出来ないことしたいな」
「いいいいいい今しかマンガは読めねぇ! あ、明日には次の奴に回さなきゃいけねえんだよっ! つーか何する気だよっ」
「大丈夫、すぐ済むよ」
「すぐ済んだことなんて一度もねえだろうがっ!!」
「何するか分かってるんだ?」
「なっ……」
祐二の慌てっぷりは本当に可愛い、上手に嘘つけないし思っていることがそのまま顔に出てしまう。
そんな風にバレバレなのに自分ではバレてないと思ってる所が可愛いすぎる。
あんまり可愛いって言うと本気で怒るから口には出さないけど、こういう可愛い所を見せられる度に俺は自分を押さえられなくなるんだ。
しかもいつも真正面からしかぶつかることしかしないから、こういう手もあるってことにも気が付いてないんだろうな。
必死に逃れようとする祐二を縫い留めていた手をパッと話した。
「うわぁっ!」
驚く声と同時に祐二の身体がベッドへと倒れ込む。
腕で身体を支える間もなく背中を付けてしまった祐二を今度こそベッドに縫い留めた。
「掴まえた」
暗くなり始めた部屋で俺を見上げた揺れる祐二の瞳、勝気な瞳の奥にはうっすらと期待の色を滲ませている。
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