ツイてる乙女と極悪ヒーロー【4】


 さっきまでと変わらず部屋は静かだし、窓も開けていないのに、何だか部屋に妙な違和感を感じるけれど、気付かなかったフリをする努力をした。

「やっばいなー。疲れてるのかな。うん、そう。色々あったし疲れてるんだよ。明日から学校だし、今日は早く寝よう!」

 一人しか居ないのに、わざと大きな声を張り上げてしまう。

 もちろん理由には気が付いていた。
 ありえないことだから、丸ごと頭から追い出そうと必死に他のことを考えようとしているのに、窓の向こうに見える次郎の部屋が視界に入るたび、そんな努力はあっという間に意味のないものになった。

 明かりの点くことがない次郎の部屋をもう一度見て、気持ちを切り替えるために勢いよくカーテンを引いた。

「さ、寝よ寝よ! 寝不足はお肌には大敵!」

(花子の場合、寝不足とか関係なくね? なんつーか、元々の作りが手遅れってゆーの?)

「何が手遅れよ!! ……って、へ!?」

 勢いで返事をしてしまった。
 おまけに今度の声は頭の中で聞こえたわけではなく、後ろの方から聞こえて反射的に振り返ってしまった。
 当然だけれど次郎の姿どころか、誰の姿も見えない。

 えっと、ちょっと待ってよ……。

「もしかして、すごくリアルだけど、これって夢なの?」

 部屋の真ん中に立って、おもむろに右手で自分の右頬を抓ってみた。

「痛い」

 念のために同じ右手で、今度は左頬を抓ってみたけれど、やっぱり同じように痛みを感じる。
 鈍い痛みを感じた頬から指を離して、大きく一度頷いた。

「夢じゃないけど、相当疲れてるってことね」

 これはお肌云々よりも、もっと重大な問題かもしれない。
 元々、頭の出来は良くない方じゃない、これ以上頭に問題が起きては困ってしまう。
 目が覚めればきっといつもと同じ毎日が始まるはず、そう信じて部屋の電気を消してベッドに潜り込んだ。

 暗くなった部屋で、布団を頭から被って目を閉じる。
 ただジッと眠気を待っているのに、頭はますます冴えてくる。

「ええ……。ない、ないない。ありえない」

 眠れない頭で考えるのは、信じられないほどハッキリ聞こえた次郎の声。
 まるで本人と会話をしているような違和感の無い感じは、すぐそこに次郎がいるような錯覚さえしてしまうほどだった。

 いつもなら気にならない時計の秒針も、時間が経てば立つほど大きくなっていき、耐えられなくなった私は被っていた布団を引き剥がして起き上がった。

「あーもうっ! 寝れないじゃないっ!」

 部屋の電気を点けて、やり場の無い気持ちを、誰も居ない部屋で叫んだ。

 身近な人が死ぬということを初めて経験したせい。
 気持ちが昂ぶっているのかもしれない。

 初めて出た葬式が親戚とかではなく、ましてや近い身内とかでもなく、よく知った同い年の幼馴染みということで、きっと自分でも気付かないほどの感情が、頭や心の中を駆け巡っているのかもしれない。

 分かっていても簡単には割り切れないモヤモヤした気持ちは、やっぱり怒りにすり替えられていった。

「そうよ、そもそも……次郎が死ぬのが悪いんじゃない」

 怪我はしょっちゅうしていたけれど、風邪なんてめったに引いたことがない。
 悪いのは頭だけだとよくおばさんが嘆いていたくらい、本当に健康優良児の次郎だった。

「それがなに……原付でスリップ事故? しかも大した怪我もないくせに、頭をぶつけた場所が悪かったとか……どんだけ頭が悪いのよ!!」

(そー言うなよー。俺もさー、まさか死ぬなんて思わなかったしさー)

「…………」

 今度はベッドの左の方、さっきと同じ場所から声が聞こえた、それはもうハッキリと。

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