緋の邂逅 第三話
休み時間になると紅蓮の周りにはすぐに女子生徒たちで人だかりが出来た。
どこから来たのか、日本は初めてなのか、好きな食べ物は、日本語が話せると分かれば遠慮せずに話しかけられるとばかりに質問責めにしていた。
紅蓮はニコリと笑うことはなかったが言葉少なに返事は返している。
「もぅ、なんであんな事したの?」
心愛の数少ない友達の、美恵子と香奈は心愛の席まで来ると小さな声で話しかけた。
美恵子と香奈は少々変わったところがある心愛の事を小さい頃からよく知っていて、理解をしていたけれどさすがに朝の行動には驚きが隠せなかった。
心愛はショートカットの後ろのハネを手で押さえながら、唇を尖らせて斜め右の方に出来た人だかりを見ていた。
「だって……あの人にそっくりだったんだもん」
心愛はポケットの中からピンク色の小さな布の袋を取り出した。
「だけどもう何年も前でしょ?」
「会いに来るって約束したもん!」
心愛は袋を握り締めて体をギュッと小さくした。
友人達は心愛の頑な態度に困ったように顔を見合わせた。
「やっぱり確かめてくる!」
「や、止めなよぉ」
急に立ち上がった心愛は、友達の引止めを振り切ると人だかりに向かって歩き始めた。
人だかりの中心にいる紅蓮は、頬杖をつきながら遠くを見ているような目をし、て面倒くさそうに返事を返していた。
「あ、あのっ!」
心愛は輪の中に割って入ろうと大声を出した。
その声にその場にいた全員が振り返り驚いたように後ずさりして場所を空けた。
唯一、紅蓮だけは反応を示さずに頬杖をむいたままで、心愛は意を決したように紅蓮の前に回りこんだ。
「私の事覚えてるでしょ? これっ……ピアスもずっと持ってて……また会えるって信じてたのっ!」
心愛は持っていた袋の中から小さな赤い石の付いたピアスを取り出した。
取り出したピアスを一度確認するようにジッと見つめると紅蓮の顔の前へと突き出した。
周りを取り囲む人だかりはその成り行きがどうなるのか好奇な視線で二人を見つめている。
「ねっ! 同じっ! 本当の名前はデリクって言うんだよね!」
心愛は紅蓮の右耳に光るピアスを指差した。
ようやく紅蓮は反応を示すとゆっくりと心愛の方に顔を向けた。
冷たい視線を向けたまま、心愛の持つピアスに視線を落とすと、何を思ったのかいきなり自分の右耳に手をやりピアスをもぎ取った。
右耳から垂れる血を紅蓮が無造作に手の甲で拭うと、周りからは溜息にも似たどよめきが起きた。
心愛だけはとても信じられなくて、目を見開いたけれどさらに追い討ちを掛けられた。
「俺はあんたなんか知らない。二度と話しかけるな」
冷たく拒絶を示すとそれっきり心愛を見ようとはしなかった。
そのあまりの冷たい態度に周りは動揺したが、一人の女子生徒が口を開いた。
「許してあげてぇ。井上さんは両親も居ないしたった一人いたお兄さんもいなくなっちゃって可哀相な子なの。想像の中の王子様と現実が区別がつかないことがあるの、きっと月守君がすっごくカッコよかったからつい同じ人だと思っちゃったんじゃないかなぁ」
輪の中から弾き出された心愛を、男子生徒は興味もなさそうに眺めていた。
[*前] | [次#]
コメントを書く * しおりを挟む
[戻る]