『姫の王子様』One step P2
一触即発の拓朗と珠子をどうにか座らせた庸介は二人の両親の力も借り、ふくれっ面の二人から一体何があったのか聞き出すと最初は呆れて声も出なかった。
(なんて言うか……)
どっちにどう言葉を掛ければいいか庸介は思い悩んだ。
二人の要領を得なかった説明を要約すると話はとても簡単だった。
最近アニメやら漫画やらにハマっている珠子、好きなアニメのイベントに応募したら運良く当選したから行きたいらしい。
「宿題が終わってないだろっ」
「帰ったらやるもん!」
拓朗がそこまでして怒る理由はアニメのイベントにあるわけではなく、その場所が問題でアレやコレやと口を出して阻もうとしていたらしい。
(まぁ……タクの気持ちも分からないでもないけど)
「お前が考えているより東京はずっと怖いとこなんだぞっ!」
拓朗がまるで学校の生活指導の先生のような口調で言うと庸介は思わず吹き出した。
間髪入れず拓朗に睨まれて慌てて口を押さえたが、込みあげる笑いは堪えきれず肩を震わせると、それが余計に神経を逆撫でしたらしく今度はパンチが飛んで来た。
(タクの言うことも当たってるけどな)
珠子のような高校生が一人でフラフラ歩いていたらいいカモにされるのは目に見えている。
いくら高校生になったとはいえ右も左も分からない、いかにも田舎から遊びに来ましたって女子高生が一人、しかもちょうど夏休み色んな意味で飽和状態の東京で誰にも声を掛けられずに帰れるとは思えない。
(そこそこ可愛いってのが問題だ)
遊び慣れていませんって顔も背の低さも体型も、そういうのが好みの男に目を付けられたら……。
庸介は想像するとゾッとして身震いした。
「もう高校生だもんっ! 一人で行ってこれる! 夜行で行って夜行で帰ってくるもん!」
「いい加減にしなさいっ!」
また二人が睨み合い火花が散った。
庸介はどうしたものかと頭を掻きながら二人の両親の方をチラッと見る、どうやらまだ口出しをするつもりはないらしくニコニコしながら二人を見守っている。
岡山家の暗黙のルールその1、珠子に関する決定権は拓朗にあり。
(そうだ、そこが間違ってんだよ……)
珠子の恋人という立場の庸介としてはいつの間にか珠子に関してのルールブックが拓朗になったことだけが面白くない。
「あのさ……折角当たったんだし、行かせてやれば?」
今まで溜まっていた鬱憤も手伝って涼しい顔で言った。
みるみるうちに拓朗の顔が怒りに染まっていくのを見て、内心失敗したと思ったが珠子の嬉しそうな顔を見ればもう後戻りは出来ない。
「タマも高二だしそういうのもいいんじゃねぇの? それに……」
「部外者は黙ってろっ!!!」
言葉を遮るような拓朗の怒鳴り声が部屋中に響いた。
シンと静まり返ったリビングには拓朗の荒い息遣いだけしか聞こえない。
(本当にコイツは……)
部外者という言葉にムッとしながらもそれは表情に出さずさっきの言葉の続きを口にした。
「東京なら俺が付き合うさ。今なら仕事空いてるし、せっかくだから東京見物でもして次の日にでも帰ればいいだろ」
「ほんとに!? 庸ちゃんっ!」
目を輝かせた珠子が抱き着きそうになるのを何とか押しとどめて拓朗の反応を待った。
(まぁ、すんなりウンとは言うわけないだろうけど)
今言った言葉の意味を頭の中で理解していく様子は拓朗の顔を見ていれば一目瞭然だった。
少しずつ眉間の皺が濃くなっていき、これ以上は無理だろうというところまで来ると拓朗はキッと顔を上げて庸介を睨み付けた。
「ダメだ」
(やっぱりな)
そう来るだろうと思っていただけに驚きはしなかった。
けれど珠子は一度期待しただけにその言葉が相当ショックだったらしく、可愛らしい瞳にはみるみるうちに涙が盛り上がっていく。
「お……お兄ちゃん、なんか……大っ嫌いっ!!!」
珠子は言ってはならない一言を言い放つとソファに突っ伏して大声で泣き出した。
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