『姫の王子様』ある夏の一日'09 P2
どうもーと片手をあげるのは茶色い髪にサングラスを掛けた大学生風の男。
珠子と沙希が互いに顔を見合わせて「誰?」と首を傾げている横で庸介はナンパかと目つきを鋭くしたが拓朗は「ゲッ」という顔をした。
「お前も来てたのかよ」
「えぇ……弟達に運転手やらされて」
拓朗はとても嫌そうな顔をしているのにも関わらず男はニッコリと微笑み返す。
未だそれが誰なのか分からない庸介が男の顔を凝視していると、視線に気付いた男はサングラスを取って庸介の前に立つとニヤッと笑った。
「ひどいなーヨウ先輩。俺の顔忘れたんですか? 雅則です、篠田雅則」
「あー……雅則かよ。久し振りだな」
「そうですよね。タク先輩とは大学で会ったりするんですけど、ヨウ先輩は……一方的に雑誌では見掛けてますよ。変装してたって俺にはバレバレですけどね」
二つ違いの後輩の登場に拓朗と庸介の顔が曇る。
だがそんな雰囲気もお構いなしに雅則はきょとんとしている珠子と沙希に視線を移した。
「可愛いねー。もしかして先輩達の彼女? にしては……ちょっと若過ぎるような……」
最後の方の言葉はたっぷり珠子の姿を眺めてからの言葉。
まだ「若過ぎる」という表現だったからいいようなものの、珠子はよく拓朗の友達から「小学生」だの「お子ちゃま」だの呼ばれているので友達の存在には敏感だ。
雅則がいい人かどうか判断しかねている珠子に興味を持ったのか雅則は視線を合わせるために珠子の前にしゃがんだ。
「初めまして、俺は篠田雅則。雅則くんでもまーくんでも好きな方で呼んでね」
馴れ馴れしく話しかける雅則、だが間髪入れず拓朗の手刀が雅則の頭上めがけて振り下ろされた。
「ってぇ……」
「何……俺の可愛い妹をナンパしてんだ、コラ。ったく相変わらずだなお前……油断も隙もない」
涙目で頭をさする雅則を拓朗は睨みつけた。
庸介もまた完全に雅則のことを思い出したのかこれ以上は近付かせないとばかりに珠子達を自分の背中で隠すように立った。
「妹……ってこの子がたまちゃん? うわぁーすげぇー実物初めて見たけど、タク先輩がシスコンとか胸張って言う理由がようやく分かりましたよー。こんな可愛い子なら俺もめちゃめちゃ可愛がる」
「あんまジロジロ見んな!」
庸介の体に阻まれながらも珠子の顔を覗こうとするたびに再び拓朗の手刀が落とされる。
イテテ……と頭を押さえた雅則は珠子の隣りに立って戸惑いの表情を浮かべる沙希に視線を移した。
「そっちの子は……えーっとどっちかの彼女かな?」
「沙希は私の友達!」
「タマ、お前は黙ってなさい」
雅則に聞かれたのは沙希だったが割って入った珠子が庸介の背中の後ろから顔を見せる。
庸介は余計なことは言うなと珠子の頭を押さえて自分の後ろに隠したが、すでに雅則の興味の対象は珠子ではなく沙希に移されていた。
「ねーねー庸ちゃん、先輩ってことは同じ学校だったの?」
どうも危機感を感じていない様子の珠子はめげずに顔を出すと庸介を見上げた。
まるで子猫がじゃれついているような微笑ましい光景に雅則は思わず吹き出しながら言い渋る庸介と拓朗の代わりに説明を始めた。
「高校が一緒で二人の二コ下。俺が入学した時には三年だったんだけど二人とも学園の中でめちゃめちゃ目立ってたんだよー。君達は高校生かな?」
気さくな話し方の雅則に珠子はすぐに警戒心を解いた。
「同じ高校ってことは……私達も後輩です!」
「へぇー君達も青稜の子? じゃあ今の生徒会長知ってる? アイツね俺の弟なの」
「えーーーっ! 篠田君のお兄さんなんですかーー??」
「こら……タマ!」
驚きのあまり後ろから飛び出して来た珠子を庸介は慌てて掴まえる。
「ほーんと可愛いねぇ、たまちゃん」
庸介に掴まえられてジタバタと暴れる珠子に雅則は目を細めて微笑んだ。
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