『姫の王子様』
ある夏の一日'09 P1

 眩しい日射しに目の痛さを感じる。

 毎日クーラーの効いた部屋ばかりにいる体にはまとわりつく熱い空気は呼吸することさえも苦しさを覚える。

「待ってろー、今コレ立ててやるからなー」

 麦わら帽子を被った珠子は兄の言葉に大きく頷いた。

 今日は地元の海水浴場に遊びに来た、メンバーは珠子と兄の拓朗そして親友の沙希もちろん恋人の庸介も一緒だ。

 砂浜の上にレジャーシートを敷いて庸介が荷物を下ろすとちょうど拓朗もパラソルを立て終わった。

「結構混んでるね、沙希。やっぱり早く出て来て大正解だったよね!」

「うん、初めてお泊まり出来たしね!」

「今日も泊まってったらいいのにー」

「二日続けてなんて……それはさすがに家の人に迷惑でしょ?」

 海へ行くのに早めに出掛けるからと沙希は昨日から珠子の家に泊まりに来ていた。

 初めてのお泊まりではしゃいだ二人は夜遅くまで話し込んでいたにも関わらず朝から元気で拓朗と庸介はその若さに呆れるほど。

「そんなの気にしなくていいのにー。お兄ちゃんだってそう思うよね?」

「そうだよ。珠子の友達の沙希ちゃんなら大歓迎だよ。沙希ちゃんならね」

「おい、こら……。最後の言葉に妙な含みがあるのは気のせいか?」

 珠子に同意を求められてデレッとした拓朗は横から突かれて眉間に皺を寄せた。

 昨日は沙希だけでなく庸介も拓朗の部屋に泊まったからだ。

「お前は家が近いんだから、自分ん家で寝ればいいだろうが!」

「またまたーあそこだって俺の第二の実家だろ? お・に・い・さ・ま!」

「誰が兄だ……あぁ? まだ珠子は嫁にはやってない!」

「あれ? ようやく俺にタマくれる決心ついたのか?」

「誰がいつそんなことを言った……」

 ここへ来ても相変わらずの二人のやり取りに沙希はクスクス笑うが珠子は呆れたようにため息を吐きながら腰に手を当てた。

「もう! ケンカしないでっ」

 珠子のひと声に二人がピタッと大人しくなる。

 二人にとって誰よりも可愛くて大切な存在の珠子、その珠子が言えばいくら不満があるとしても従う他なかった。

 とりあえず表面上は落ち着くと珠子は満足そうに頷いて沙希を振り返った。

「ね、カキ氷食べたくない?」

 海に来て早速カキ氷というところが珠子らしい。

 沙希が思わず吹き出すと珠子はプゥと頬を膨らませた。

「ごめんごめん。じゃあ……買いに行こうか。お兄さん……達の分も買ってきましょうか?」

 子供っぽい珠子を宥める沙希はまるで姉のようだ。

 沙希は珠子を宥めると少し緊張した面持ちで珠子の隣りに立っている拓朗に声を掛けた。

 パラソルの下に座った庸介はそんな様子を見ていたが、何かに気付いたのか顔を輝かせると立ち上がって珠子の手を引こうとした。

「あれ? もしかしてタク先輩とヨウ先輩じゃないですか?」

 突然の若い男の声に四人は何事かと声のする方を振り返った。


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