『姫の王子様』花火 P14
ドンッ―
下から突き上げるような重低音と夜空を彩る大輪の花。
大きな歓声が上がっていよいよ花火大会が始まった。
まるで太鼓の乱れ打ちのような音ともに始まりに相応しいスターマインが人々の目を楽しませた。
「庸ちゃん!見えないよぉ」
まだ屋台のある通りを歩いていた俺達はどうやら一番人の多い所にいるらしくタマは四方八方を人の壁に囲まれていた。
「ったく食い意地が張ってるからいけねぇんだぞ!」
だって…と言い訳をしようとするタマの手にはキャラクターの形をしたカステラの大袋が握られている。
買う時に拓朗のお土産だと言い張っていたがすでにその中身は半分にまで減っていた。
「今からじゃ中に入るのは難しいな」
小さい頃から通いなれた公園、たとえ足が遠のいていても入り組んだ農道は自分の庭に等しい。
俺はタマの手を引くと人波を掻き分けるように歩き始めた。
背の高い俺は平気だが背の低いタマにとってはこの人ごみじゃ息苦しさや圧迫感も感じるかもしれない。
少しでも早くタマをそこから連れ出してやりたくて足を速めた。
屋台のある通りからわき道に逸れて車が一台ギリギリ通れるくらいの道へと入った。
やっぱりここは穴場だったな。
公園の木で少し見にくいこの場所は離れたところに家族連れがいるくらいでさっきのような賑やかさはない。
だが見にくいと言っても打ち上げ花火は空一面に広がるような大迫力だ。
「この辺でいいか」
ちょうどガードレールのある所で立ち止まり体を預けた。
「庸ちゃんっ…足…速いっ」
タマは息を切らせながら胸の辺りを押さえている。
ヒョコヒョコと歩きながら付いてくる姿はまるでペンギンみたいにも見えた。
「足が速いんじゃなくって長いだろ?あっ…タマが短いのか?」
からかってやるとタマの頬がプーッと一気に膨れ上がる。
そこが可愛いんだけど…と心の中で付け加えるとタマも俺の隣に来てガードレールに腰掛けた。
その一瞬タマの顔が歪んだのを見て異変に気付いてタマの足元にしゃがんだ。
「タマッ…何で言わなかった?」
右足の鼻緒で擦れた部分が赤くなって皮が剥けている。
「別に大丈夫だもんっ!」
「大丈夫なわけねぇだろ。おぶってやるから帰るぞ」
俺はタマに背中を向けた。
もっと俺がタマのことを気遣ってやれてたらこんな痛い思いさせなかったんだ。
情けなくて唇を噛み締めた。
「タマ、早くしろっ!」
自分のしたことが情けなくて苛つく俺は思わず大きな声を張り上げた。
背後で短い悲鳴を飲み込むような声が聞こえた。
慌てて振り返ると持っていたカステラの袋を強く握り締めているタマの姿。
「庸ちゃんと花火見たかったの…。だからちょっとくらい痛くても平気なんだもん」
タマの気持ちが痛いほど伝わって来た。
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