『姫の王子様』
花火 P7

「ぐぇっ…」

 部屋に体が半分入った所で首を強く絞められるように後ろに引っ張られた。

 まるで潰れたカエルのような声で呻いた。

 喉仏を強く締め付けられながら部屋の外に引きずり出された。

 目の前で部屋の扉は音を立てずに閉まった。

「オーマーエーナー」

 まるで地を這うような低い声で唸る拓朗を振り返った。

 どうやら冗談ではなく本気で怒ったらしい。

 顔を真っ赤にして俺の首を締め上げていてその目は血走っている。

 俺よりも15cmほど低い拓朗に後ろから閉められて俺たちはバランスを崩して廊下に尻餅をついた。

 それでも手を離そうとしない拓朗を振り返った。

「離…して、ダーリ…ン?」

 途切れ途切れの声で囁くと人差し指を唇に当てて投げキスを送った。

 心底嫌そうな顔をする拓朗にウインクをした。

「ヨーウー…ったく」

 しばらく呆れてい拓朗はプッと吹き出して腕をを離した。

「お前にはほんと敵わねぇって…」

 床に手を付いてクスクス笑い始めた。

 俺たちは何が楽しいのか分からなかったが廊下に転がって腹を抱えて笑った。

 笑い続ける拓朗は俺の肩をバンバン叩きながら涙を流している。

「なに…してるの?」

「アハハッ…は?」

 その声に笑いを止めると顔を上げた。

 タマがドアを開けて不思議そうな顔で俺たちを見下ろしている。

「おはよう!タマ!」

「おはよう…庸ちゃん」

「珠子〜おはよ〜!」

「おはよう、お兄ちゃん…で、何してるの?」

 寝ぼけた顔でキョトンとしているタマが可愛くてまた笑いがこみ上げてくると拓朗も一緒に笑い始めた。

 俺と拓朗は視線を合わせるとブフッ!と吹き出した。

「ねぇねぇ〜何で笑ってるのぉ??」

 一人だけ蚊帳の外のタマが膨れっ面でしゃがみ込むと俺たちの顔を見比べた。

 俺と拓朗はタマの肩に手を回すとグイッと引っ張った。

 二人の間に座らされたタマは何が何だか分からないという顔をしていたが二人につられるように笑い始めた。

 三人は朝から涙を流して笑いそれは睦美が声を掛けるまで続いた。


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