『姫の王子様』
花火 P2

 控え室に入り手早く着替えながら休み明けの仕事を確認作業を行う。

 もともとモデル志望だったがありがたい事に最近はCMの仕事や雑誌のインタビューの仕事も舞い込んできた。

 けれどこの業界で長くやっていくのは難しいとも感じている。

 鏡に自分の姿を映した。

 薄茶色の瞳と髪、190cmと長身の身長に長い手足。

 この容姿のおかげでモデルとしての仕事は成功したがやはりそれだけでやっていけるほど甘くないだろう。

 良くも悪くも目立つ容姿の為、今では必須となった帽子とサングラスを手に取った。

「それでね…ヨウくん、10月からの仕事なんだけど」

 髪を隠すように帽子を目深に被っていると佐橋さんに声を掛けられた。

「ワガママ言ってすんません」

「いやいいんだよ。でも今入ってる仕事は断れなくてかなり忙しくなっちゃうけど平気?」

「大丈夫です。体力だけは自信あるんで」

 心配そうな表情の佐橋さんに笑顔を向けた。

 温和で穏やかな性格の佐橋さんは眼鏡の向こうの目を細めた。

 優しい顔立ちがより柔らかい表情の笑顔に見せた。

「本当はそろそろ東京で暮らしたら?なんて言おうと思っていたんだけど…ヨウくんにはいっつも驚かされるね」

 佐橋さんの言葉に笑いながらメッセンジャーバッグを肩に掛けると一緒に部屋を出た。

 廊下を並んで歩きながらすれ違うスタッフに挨拶をする。

「でも嬉しいよ」

 佐橋さんの意外な言葉に立ち止まった。

「嬉しい?」

 聞き返すと佐橋さんは力強く頷いて俺はキョトンとした。

「モデルの仕事でもこういうのがしたいって言った事のない君が初めて自分から何かしたいって言ってくれたんだ。だから僕は渋る社長に一週間張り付いて説得してでも君を応援したいと思ったんだ」

「あり…がとうございます」

 礼を言う俺の顔がよっぽど変だったのか佐橋さんはプッと吹き出した。

「どうしたの?」

「い、いや…佐橋さんっておっとりしてるかと思ったけど意外と熱い人だったんだなぁと思って」

「僕はこれでも仕事には熱い方だと思うけどなぁ」

 だがその口調そのものがおっとりしていてとても内にそんな熱いものを秘めているようには見えない。

 改めて良い人達に囲まれて仕事をさせて貰ってると嬉しくなった。

 そしてもう四年も一緒にしているのに今更そんな事に気付く自分がおかしかった。

「どうしたんだい?」

 口元を緩ませている俺を見て佐橋さんが不思議そうな顔をした。

「俺にはいいマネージャーさんが付いてたんだなぁとようやく気付きました」

「ヨウくんも大人になったって事だね」

 殊勝なセリフで照れくさそうに笑う俺の頭に手を伸ばした。

 俺は少し腰を屈めると佐橋さんはまるで子供にするように頭をポンポンと撫でた。


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