『姫の王子様』
庸ちゃん×お兄ちゃん P5

「ったく無視かよ」

 庸介は歩きながら携帯をパチンと閉じた。

 さっきから珠子に何度も電話をしてるが留守電に切り替わるばかりだった。

「あいつの行きそうな所は見当がつくけどな」

 あまり焦った様子もない庸介は迷わず足を進めた。

 家から10分ほど歩いた所にある小さな公園へ着くとブランコに座っている珠子の姿を見つけた。

「こーら!こんなとこでなぁにやってんだ」

 声を掛けながらブランコの前にある柵に腰掛けた。

 顔を上げた珠子の目が少し赤くなっている事に気付いた庸介は立ち上がるとすぐ側へ行き腰を下ろした。

「庸ちゃん…」

 鼻をすする珠子が小さく呟いた。

 小さく揺れているブランコを止めるように庸介は珠子の腰に手を回した。

「泣くほど病院が怖いのか?」

 珠子の顔を下から見上げながらからかった。

 だが珠子の表情は変わらず落ち込んだままで庸介は少し考えるように黙り込んだ。

「庸ちゃん…」

「どうした?」

 元気のない声の珠子に庸介は出来るだけ優しい声で答えた。

「お兄ちゃんって…庸ちゃんの事が好きだったの?」

「…おまえもかよ」

 睦美と同じ事を考えているあたりさすが親子といったところだろうか。

 庸介は感心しながら呆れたように溜め息を吐いた。

「俺とタクがどうかなるわけねぇだろ!ばーか!それとも何か?タマは兄貴が二人欲しいのか?」

「違うよっ!もしお兄ちゃんも…庸ちゃんの事好きだったら…私…どうしたらいいのかなって…」

 庸介はヤキモチを妬く対象ではないと分かっていてもここまで兄として想われている拓朗が羨ましかった。

 常々思ってはいたがやはり一番のライバルは拓朗だと認識させられる。

「それでも俺はタマを選ぶよ」

「庸…ちゃん…」

「ってそんな事絶対ありえねぇから。俺とタクは親友なのはこの先もずっと変わる事はない。そうだろ?」

「うん。でも…もし…二人がそういう関係だったらどっちが…"受け"になるのかな?」

 さっきまでの落ち込みはどこへやら珠子は目を輝かせている。

「想像したくない」

 庸介はげんなりしながら答えた。

「普通ならお兄ちゃんが受けっぽいけど…庸ちゃんは王子みたいだし受けもいけると思うんだよねっ!ねっ?」

 何の同意を求めてるんだ…。

「くだらねぇ事言ってないでさっさと行くぞ!ブスッと穴開けてもらえ!」

「あっ!庸ちゃん待ってよぉ〜」

 さっさと歩き始めた庸介の後姿を慌てて追いかける。

 追い掛けて来る珠子の足音を聞きながら庸介は足を速めた。

 必死に呼び止めようとする珠子の声に思わず口元に笑みが浮かぶ。

「ほんと変な家族だよな」

 いつかはそんな変な家族の一員になるかもしれない庸介が小さく呟いた。

end
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