『姫の王子様』
姫の王子様 P4

 久しぶりに会えたのに素直になれない。

 会うたびに格好良くなって大人になっていく庸介を見ていると不安ばかりが先行してしまう。

 思うように会えないという状況もそれを更に増幅させた。

(もっと会いたいのに…)

 でも一度も口に出した事はなかった。

 言ってどうにかなる話じゃない事くらい高校生の珠子にだって理解できている。

 だからこそたまに会える貴重な時間をそんな理由で遅れて来た事に腹が立っていた。

 信号が黄色から赤に変わり車が静かに止まる。

「ターマ」

 隣からいつもの調子で呼ぶ声がしても振り向かなかった。

 昔からまるで猫を呼ぶようには珠子の事を呼ぶ。

 庸介だけの特別な呼び方でその声で呼ばれる事は嫌でなかった、むしろ特別な感じで好きだったりもする。

「ターマ、怒ってる?」

 言葉の割りには全然心配してなさそうな口調に珠子は口を尖らしながらチラリと横を向く。

 信号待ちだからかハンドルに顔を乗せてこっちを見ていた。

 ドキッとして慌てて顔を伏せる。

(いつから見てたんだろう…)

 心臓がドクドクと急に早く動き出した。

 ただ見られていただけではこんな風にはならない。

「ターマ?こっち向けー」

 大きな手で頭を掴まれると無理やり首を回された。

 グリンと頭を運転席の方へ向けられて再び視界に庸介の顔が入って来た。

 そこにはいつの間にか帽子もサングラスも取って本来の庸介がいる。

「遅れてごめんな?」

 薄茶色の瞳が優しく微笑み、窓から入ってくる風が少し長めの瞳と同じ色の髪を揺らした。

(やっぱり王子様みたい…)

 庸介の顔があの童話の中の王子様と重なる。

 ドクドクと鼓動が早くなった。

 目の前にいるのは幼馴染みの庸ちゃんで、お兄ちゃんの親友の庸ちゃんで、彼氏の庸ちゃん。

 けれど庸介を目の前にしたらこう呼ぶ人間の方が圧倒的に多いはず。

"モデルのヨウ"

 高校の時にスカウトされたのがきっかけでファッション雑誌でモデルデビュー。

 今は雑誌だけでなくテレビでもその姿を目にする事も多い。

「庸ちゃん…」

「ほらー、機嫌直せー」

 ふざけて珠子の鼻をつまむと左右に揺らしながら笑っている。

 見慣れた庸介の笑顔に珠子の顔にようやく笑顔が戻る。

「ん、ヨシッ!」

 ちょうど信号が青に変わって庸介はサングラスを掛けると前を向いた。

 珠子が不安になる一番の原因は"ヨウ"だった。

 庸ちゃんならずっと一緒に居てくれる気がする、でも"ヨウ"になった庸ちゃんといつまで一緒にいられるのかな。

 庸介が"ヨウ"として注目を浴びれば浴びるほど珠子の不安は膨れ上がっていた。


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