『姫の王子様』姫の王子様 P3
「庸ちゃん、車なんて珍しいね」
「ようやく一年経ったからなー」
「え?もしかしてお兄ちゃんの言うこと守ってたの?」
「タクはなー怒るとマジこえーんだよ」
「えー優しいのに…」
「それはタマ限定」
車が走り出して流れに乗った頃ようやく落ち着くと初めて乗る車の中をキョロキョロ見渡した。
「煙草、いい?」
「あ…、うん」
(煙草吸うんだ)
運転席側の窓が開き車内に風が入り込んでくる。
春の気持ちいい風が頬を撫でる。
黒い帽子にサングラスを掛けて煙草を吸う横顔はまるで知らない人のようだった。
(庸ちゃん…なんか変わったなぁ)
小さい頃から"庸ちゃん"と呼んでいて恋人同士になった今でもそう呼ぶ習慣は変えられない。
本名は三木本庸介。
珠子との兄拓朗と同い年で今年22歳になる。いつも一緒に居た二人の後を珠子はくっついて離れなかった。
小さい頃はお兄ちゃんが二人いるんだと信じて疑わなかった。
中学卒業してすぐ付き合い始めて一年ちょっと経つ。
付き合い始めた頃免許を取った庸介が珠子をドライブに誘うと兄拓朗が慌てて家から飛び出して来てこう言った。
「一年無事故・無違反出来てから出直して来いッ!」
さすがに最初は抵抗した庸介だったが拓朗の事を誰よりも分かっているのですぐに承諾した。
拓朗は自他共に認めるシスコンだった。
5歳離れた妹の珠子が可愛くて可愛くて仕方がない。
二人が付き合う事になった時も一騒動起きたほどシスコン度は高い。
「つーか駐車場とか全然空いてねーんだな。おかげでグルグル回ったあげく路駐するしかなくてさー」
「えっ?、それで遅刻…コホッ」
風に乗って煙草の煙が珠子に直撃すると吸い込んでしまい軽く咳き込んだ。
「あー悪ぃ…」
すぐに煙草を灰皿に押し込むと頭をポンポンと叩いた。
それが子ども扱いされているようで嫌な珠子は手で振り払った。
少し驚いた顔をした庸介だがすぐに笑顔に変わる。
「何拗ねてんだよ」
「別に…拗ねてなんかないもん!」
言葉と態度がちぐはぐな珠子を見て庸介が可笑しそうに笑った。
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