『姫の王子様』姫の王子様 P9
「あぁーすごい良かったぁ…グスッ」
映画を見終わって出て来た珠子は目を真っ赤にして鼻を啜っている。
洋画のアクション物がいいという庸介の意見を却下して今話題の邦画の恋愛映画を見た。
途中から泣きっぱなしの珠子の目は赤く腫れ上がっている。
「そんなによく泣けるよなー」
隣でずっと号泣しっぱなしの珠子を見て呆れたように笑っている。
「庸ちゃんだって泣いてるくせに!」
赤くなっている庸介の目を指差した。
涙こそ浮かべていなかったが目が赤く充血している。
「バカッ!これは途中でコンタクトがずれて痛くなったからだ」
「ふぅーん」
いかにもありがちな言い訳をする洋介を疑いの目で見る。
ムッとした庸介がグッと顔を近づけた。
「よく見ろ!途中でコンタクト外したりして大変だったんだぞ!誰かさんは大泣きしてたから知らなかっただろうけどなー」
顔を近づけられて少し引きながら庸介の目を覗き込む。
白目は赤く充血しているけれどさっきまでの黒目ではなく薄茶色の透き通るような色になっている。
「ほんとだ…」
「誰かさんみたいなお子ちゃまと一緒にすんなよなー」
「誰かさんと違って感受性が豊かなんですー!」
「あぁ!だからマンガ見ても泣けるわけだ」
「ムゥーーー!!」
いつもの二人のやり取り。
一ヶ月ぶりに顔を見て話せる楽しさが時間が過ぎるほどに実感できていた。
一緒にいるだけで楽しくて自然と笑顔が零れた。
「飯にはまだ早いか…。なんか見るか?」
「じゃあ…本屋!買いたいマンガ…ッ」
言いかけて庸介の視線に気づいて慌てて口を閉じる。
ニヤニヤと笑っている。
「マンガ買いたいでちゅかー?」
馬鹿にした顔で笑う庸介の腹めがけてパンチを送り込む。
「ウォッ…!」
殴られた雄介が腹を抱えながら苦しそうに呻いている。
(エッ…そんな強く叩いたつもりないのに)
目の前で苦しそうに呻く庸介の周りを心配そうにウロウロと動いた。
「よ、庸ちゃん?大丈夫?」
腹を抱えて腰を曲げている庸介を心配そうに覗き込んだ。
「…ッ、きゃぁっ!」
突然首に手を回されて前のめり倒れそうになった。
顔を上げるとニコニコと笑う雄介の顔が目の前にあった。
「バーカ、あんなへなちょこパンチなんか効くかよ」
ベーっと舌を出して笑っている。
(もぅ!本気で心配したのにっ)
腹を立てた珠子は首に回されている庸介の手の甲を思いっきり抓った。
「っ痛ってーー!」
今度ばかりは本気で顔をしかめながら慌てて手をほどいた。
手の甲を摩っている庸介を横目に見ながら勝ち誇ったような顔をした珠子は出口に向かって歩き出した。
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