『-one-』

一人より二人 P19


 予想より遥かに激しい結果ではあったけれど、足りなかった陸をたくさん補充出来たのは事実で、満たされた麻衣は布団の中で微笑んでいると、バタバタと足音が近付いて来た。

「麻ー衣ー! 起きたー?」

 元気な陸の声が側で聞こえ、痛む腰を庇いながら起き上がると、寝起きではなく既に着替えを済ませた陸が立っている。

「おっはよ、麻衣ちゃん」

「おはよー……陸」

 ご機嫌な陸は目を細め、ベッドに上がってくると額にキスをして、それから頬と鼻先に触れた後、音を立てて唇にキスをしてニカッと笑った。

(あ……なんかいい匂い?)

 唇のくすぐったさに目を細めていたけれど、鼻先をくすぐる甘い匂いに陸を見上げた。

「腹減ったからさー! パン屋まで行って来た!」

 陸が手にしているパン屋の紙袋、ガサガサと取り出されたそれらはすべて麻衣の好きなものばかりだった。

「今日はさー、一日部屋に篭ってよーよ! DVDも借りてきたし、昼は久々に宅配ピザ! たまにはさ、二人でゴロゴロすんの! ね、麻衣っ。いっぱい食べて、いっぱい休んで、そしたら夜はいっぱいエッチしよーね」

 屈託なく笑う陸からは、夜の仕事をしている匂いはない。

 洗いざらしの茶色い髪、穿きこんだジーンズとシンプルなTシャツ、それから子供っぽいけれど全開の笑顔。

 どんな陸だって好きだけれど、自分しか知らない陸がいると思うと嬉しくて堪らない。

「最後のだけ却下!」

「えーっ! 最後のだけは絶対に外せないのに!」

 拗ねる陸が一番大好きな桃のペストリーを取り上げて、「これはあげないっ」とプイッと横を向く。

「えー、意地悪ー」

「じゃあ、夜エッチ、オッケー?」

「んー、考えておくー」

 クスクス笑うと、陸も笑顔になって、気が付けば自然とキスをしてしまう。

 一人で過ごす時間も大切だと思うけれど、そう思えるのはこうやって二人で過ごす時間があるからだと気付かされる。

「だーめ! 今、決めてっ!」

「どうしよっかなぁ……」

 きっと陸の思うとおりの展開になるけれど、それはそれで構わない、だって何をするにしても今日は二人でいられるのだから。

 クスクス笑っていると、陸に頬を挟まれてチューッと唇を押し付ける子供のようなキスをされた。

 二人きりの週末は始まったばかり。


end

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