『-one-』

赤いシルシ P1


 クリスマスを目前に控えたある日。

 高校時代からの親友から掛かってきた一本の電話に久しぶりに高揚感を覚えた。

 そしてクリスマスの夜、私の部屋には少し緊張した面持ちの麻衣がドレッサーの前に座っている。

「美咲……ちょっとお化粧濃くない?」

「何言ってるの! これくらいしないとダメでしょ?」

 普段はほぼノーメイクに近い麻衣は同い年の私から見ても羨ましいほどきれいな肌。

 今日はその肌にきっちり下地を塗りいつもより丁寧にベースメイクをした。

 鏡越しに視線を合わせる麻衣は少しだけ不安なのかぎこちなく笑っている。

 今まで入れている所を見たこともない、きっと入れ方も知らないアイラインを入れて、マスカラはボリュームアップ。

 クリスマスらしくアイシャドーは華やかに。

 いつもは童顔の麻衣も今日だけは大人っぽく。

「ね……上手くいくと思う??」

「麻衣が言い始めたことでしょ? お化粧終わりっ! ウィッグ着けるよ」

 口紅は普段なら似合わない赤。

 慣れない化粧にしきりに気にする麻衣の手を時々諌めながらゴージャスなウィッグを付ける。

 親友の麻衣は普段はのんびりして大人しそうに見えるけれど、実はビックリするほどの行動力を見せる時があって本当に驚かされる。

 そして今回も彼女は私にまるで大切な秘密を打ち明けるようにソッと電話口で囁いた。

「陸を驚かせたいの」

 麻衣をホストの陸クンに引き合わせたのは私。

 実家のお父さんがホストクラブを経営しているのに、別れた彼氏の影響でホスト……というより調子のいい男を毛嫌いしていた。

 それなのにあっという間に恋に落ちて、いまや二人は婚約中。

 ホストとの恋愛なんて上手くいくはずがないと、ほどほどのところで諦めさせようと思っていた。

 けど恋愛もいいかもしれない。

 二人を見ているとそんな気にさえさせられてしまうから不思議だ。

「美咲……服ってこれしかないの?」

 ぼんやりしているとクローゼットの前に立っている麻衣は、用意しておいたドレスを見ながら泣き出しそうな顔をして声を掛けてきた。

「今年のoneのクリスマスイベントはドレス着用でしょ。男の子達もタキシード着てカッコいいらしいわよぉ」

「そ、そうなんだけど……これは……」

「これくらいでいいの! 麻衣は胸もあるし割りとエッチな体してるから……ほら、このマーメイドラインは? イメージとしては夜の人魚姫」

「エッチな体って……この金色のスパンコール、目が痛いんだけど」

 自信を持って勧めたドレスをものすごく嫌そうな顔をして見ている。

 私は仕方なくドレスをクローゼットに戻すと元々勧めようと思っていた黒いベルベッドのミニのスリップドレスと赤いサテンのロングドレスを見せた。

「普段着ない物を選ばないとすぐバレちゃうでしょ」

 今夜、麻衣はナンバーワンホストの陸クンを驚かせるために変装して店へ顔を出す。

 そんなの麻衣にベタ惚れの彼なら一目で気付くとは思うけれど、本人は大真面目にクリスマスのサプライズをするんだって張り切っているので仕方がない。

 私の言葉に真剣な表情をしていた麻衣が手を伸ばした方のドレスに少し驚いた。

 てっきりシンプルな黒のドレスを選ぶと思ったら赤いドレスを選んだ。

 このドレスは胸元が大きく開いているうえに背中は黒いリボンで編み上げになっている。

「おぉ……本気だねぇ」

「たまには陸をギャフンと言わせたいのっ!」

 ギャフンと言うのは多分麻衣の方だよ。

 とは言えず、私は最後の仕上げに取り掛かった。

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