『-one-』

アツアツサマー P18


 カーステレオからはいつもより大きめのボリュームでラルクの曲が流れ陸が口ずさんでいた。

 すっかり夜も更け二人は家路へと国道247号を北上していた。

「眠たかったら寝ていいって」

「眠くないって言ってるでしょ!」

「なんでそんな意地張ってるの?」

「寝たら陸も眠くなっちゃうじゃん」

「俺なら平気だって」

「だーめ!」

 この会話を交わすのは海を出発してからもう何度目か分からない。

 大きなアクビをしては頭がガクンと落ちる麻衣はそのたびに目をカッと開き何かと陸に話しかけた。

 そのたびに陸は着くまで寝てていいと声を掛けるのだがさっきから同じことの繰り返し。

 相当眠いはずなのに陸のためと必死に睡魔と戦う麻衣の姿があった。

「いつも寝てるくせに…」

 ボソッと嫌味のつもりで呟いた陸の声は夢の入り口を行ったり来たりしている麻衣の耳には届かなかったらしい。

 首を真横に倒して頭がふわふわ揺れている。

「だーから素直に寝ればいいのに」

 その姿が可愛くてさっきから口元も頬も緩みっぱなしだ。

「眠くらいっ!」

 どうやら覚醒していたらしく陸の声が耳に届いたらしい。

 コンソールボックスに手をついて陸の方に顔を向けている。

 ちょうど信号で停まった陸は首を回してジッと麻衣の顔を見た。

 何度もアクビをしているせいかすっかり涙目で気が緩むと瞼か落ちてくるらしく瞼が瞳の上を行ったり来たりしている。

「麻ー衣、可愛い…ちゅっ」

 また落ちかけている麻衣の額にキスをする。

 わずかに瞼が震えたがもう持ち上げる気力は残っていないらしい。

 瞼は完全に落ち頭がカクンと下がった。

「ほんと可愛い」

 右手でハンドルを握り左手は麻衣の肩を抱いた。

 首を真横に倒した麻衣の頭に頬をすり寄せていると信号が変わり陸はアクセルを踏み込んだ。

 聞き取れない声で何か呟いた麻衣はモゾモゾと動くと柔らかい髪が腕をくすぐるように揺れる。

「もーまた欲情しちゃう俺ってどうなの」

 またムラムラと湧き上がる性欲に思わずひとりごちる。

 麻衣を抱くたびに身も心も満たされて幸せに包まれているのにそれでもまた麻衣を欲しがろうとする。

「またしたいって言ったら怒るかなぁ…明日も休みだし少しくらいいいよなぁ。仕事が忙しいとしばらく出来ないし」

 自分勝手な理由をこじつけた。

 気持ちはもう帰宅後へと飛んでいる。

 今日は一緒に風呂に入りたいと思うと自然とハンドルを握る手に力が入る。

 逸る気持ちを抑えながら事故だけは起こさないようにと気を引き締めているとまた麻衣の小さな声が聞こえてきた。

「れむく…らい…」

「うんうん。今夜は寝ないでね」

 聞こえていないと分かっている陸は弾んだ声で返事をした。


end

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