『-one-』

しっぽり外デート P5


「麻衣…ズルイ。押し倒すよ?」

「もう酔われたんですか?ダメですよ?」

 麻衣が若奥様といった感じで話す。

 陸が抱き寄せようと手を伸ばすと麻衣はその手を掴まえてメッと叩く真似をした。

 陸は参ったという表情で顔を伏せてチラッと麻衣の顔を見る。

 その表情は口を尖らせて少し拗ねている。

「酔っちゃった?」

 麻衣はクスクス笑いながら料理を食べようと箸に手をのばす。

 箸を持つ前に陸の手に掴まった。

 グイッと引き寄せられて陸の胸の中に倒れこむ。

「酔ったから介抱しろ」

「酔うほど飲んでないでしょ?」

「なんだ…旦那の言う事が聞けないのか?」

 すっかり亭主関白の旦那気取りだった。

 それにたったあれだけの日本酒で少し酔いが回っているらしく目が潤んでいる。

「旦那さまはいつからそんなにお酒に弱くなったんですか?」

「口ごたえするのか?」

 陸はキスをしようと麻衣の顎を掴んだ。

 だが麻衣の顔を見つめると手を離してギュッと抱きしめた。

 あまりの力強さに麻衣は小さく悲鳴を上げた。

「陸?ほんとに酔っちゃったの?」

 麻衣は陸の背中に手を回してトントンと叩いた。

 抱きしめたままの陸がゴソゴソと動いたと思ったら麻衣は耳に何かが触れる感覚に顔を上げた。

 陸がぼかしの薄いピンクの和布で作られた花かんざしを髪に挿そうとしている。

「麻衣に似合うと思って」

 まるで舞妓さんのように可愛い花かんざしに麻衣はたちまち笑顔になった。

「可愛い!ありがとう!」

「ん…やっぱり似合う。可愛い…可愛い…ねぇ麻衣。帰りたいって言ったら怒る?」

 陸はかんざしを挿すとまたギュッと抱きしめた。

 麻衣の肩に顔を埋めながらボソボソと呟く。

「どうしたの?やっぱり酔った?気分良くない?」

 麻衣は心配になって陸の体を離して顔を覗き込んだ。

 下を向いていた陸が顔を上げた。

「うん…酔った。麻衣に酔ってる…だから抱きたい。酔わせた責任…とって?麻衣じゃなきゃ介抱出来ない」

 陸はハァッとため息のような熱い吐息を吐いた。

「せっかくだからデザートまで食べて行きたいな?」

 麻衣の言葉にがっかりした顔をする。

 麻衣はさっきより小さい声で言葉を続けた。

「でも帰ったら旦那さまの仰るとおりに…」

 そして麻衣は今まで以上に恥ずかしがる陸にお酌をした。

 夏が始まる前のひとときをいつもよりも少ししっぽりと過ごす二人の姿。

 暑い夏はもうすぐそこ。

end


[*前] | [次#]


コメントを書く * しおりを挟む

[戻る]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -