『-one-』

ホストとOL P1


 取り囲むように立ち並ぶビル。

 埋め尽くすようにひしめき合う車。

 大きな声を上げながら行き交う人々。

 週末の夜の栄はオモチャ箱をひっくり返したように賑やかだった。

(遅い…)

 携帯で時間を確認した回数はすでに五回以上。

 行き交う人の波を眺めながらこれもまた何度目かの大きなため息を吐く。

 田口麻衣、28歳。

 OLと呼ぶには少し語弊があるかもしれない。

 高校を卒業してすぐ就職したのは名古屋市内でも外れにある小さな鉄工所。

 もう勤続十年の事務員。

 同じ市内でも今いる場所と違ってネオンもビルもなくあるのは溶接の火花と薄汚れた工場。

 名古屋に出るのに電車に一時間近く揺られなくてはいけない田舎に住んでいた麻衣にとってはそれでも憧れの街。

 憧れの街で念願の一人暮らし、夜毎きれいな服を着て夜の栄へ繰り出して夜景を見ながらお酒を飲んで素敵な恋をする。

 そんな風に思っていたのはまだ十代だった頃の話。

 憧れと現実のギャップに苦しんだのは数年で今はしっかりと現実を受け止めている。

「ねー、お姉さん何してんの?暇なら遊ばない?」

 目の前に現れた茶髪の男がヘラヘラと笑って顔を近づける。

(これで三人目?すごいお酒臭い…)

「人を待ってるんで」

 表情を変えずに硬い声で返す。

 これだから夜の栄で待ち合わせは好きじゃない。

 久し振りだからと着て来た可愛いワンピースもやたら目を引く原因の一つ。

「えー?男ー?彼氏ー?そんな奴ほっといて俺と遊ぼうよ」

 酔っ払いに絡まれるのは好きじゃない、好きだという人がいるならその理由を聞いてみたい。

 麻衣はひたすら下を向き無視を決め込んだ。

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