『-one-』
零れた想い P1
金曜日の夜
フラフラと一人で繁華街を歩いている。
もう何回キャッチに声を掛けられたか分からない。
別に当てもなく歩いているわけじゃなく…飲み会の場所へ辿り着けずにいるだけ。
「あれー?また同じ所に戻って来た?」
ちゃんと地図の通り歩いているはずなのに、ちっとも目的のお店に辿り着けず同じ所ばかり通っているみたいだ。
麻衣は手に持った地図を広げると周りの建物と照らし合わせた。
あーもうやっぱり友達に迎えに来て貰った方が早いかな?
携帯を取り出そうとバッグに手を入れると後ろから声を掛けられた。
「お姉さん?どうしたのー困り事?」
また来た!
さすがに金曜の夜だけあってこういうのが多すぎる!
たいていはホストクラブのキャッチばっかり。
聞こえないフリをして無視を決め込もうとすると、後ろから声を掛けてきた男は麻衣の前に回りこんだ。
「俺が助けてあげよーか?」
「別に困ってませんから!」
無遠慮に体を近付けられてさすがに驚いた麻衣は大きな声を出して顔を上げた。
「あ…」
麻衣は変な物でも見るような顔でポカンと口を開けたまま相手の男を数秒間凝視した。
そして何かを思い出そうと目をキョロキョロ動かしている。
「どっかで会って…ます?」
どうしても思い出せずに恐る恐る男に問いかけた。
男は不敵な笑みを浮かべながらさらに麻衣に顔を近づけた。
「ひどいなぁ。二度もお会いしてるのに?」
二回も?
確かにどこかで会った事があるような気はするけど…。
「一度目は可愛いワンピース姿で、二度目は…威勢のいいホストに連れ去られてしまったけどね」
男は麻衣の髪に触れると指で髪の束を絡め取るように巻きつけて唇を寄せた。
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