『-one-』

冬篭もり P10


 文句を言う陸を説き伏せると麻衣は走り出しそうな勢いで雪の積もった道へと踏み出した。

 道路の雪は解けているけれど歩道にはまだ雪がしっかりと積もっている。

「そんなにはしゃいだら滑るって!」

 陸の言葉も無視して麻衣はまだ誰も足を踏み入れていない場所を見つけては飛び跳ねるように雪の感触を楽しんでいる。

「大丈夫だって!ほらっ!」

「危ないっ!」

 まるで子供のように飛び跳ねて次の着地点へとジャンプをしようと足を踏ん張った瞬間にツルッと靴が滑って体のバランスを崩して宙に浮いた。

「きゃぁっ!!」

 後ろから見ていた陸が慌てて声を掛け同時に駆け出したおかげでギリギリ尻餅を付く前に体を支えた。

「だから言っただろっ!怪我でもしたらどうすんの!」

 脇を抱えるようにして支えた陸が怒った顔をして麻衣を怒鳴りつけるとズルズルと上に引っ張り上げて立たせた。

「足捻ってない?どこも痛くない?」

 陸が本当に心配してくれるのを見て麻衣はさすがに反省したのか俯いた。

「ごめん…部屋に帰る」

 シュンと項垂れて元気の無くなってしまった。

 少し怒りすぎたか…と後悔したものの陸は麻衣の手を取ってマンションへと戻り始めた。

「帰ったらココア入れてあげるね」

「ごめん…久しぶりの雪だからはしゃぎ過ぎた」

 麻衣の言葉に陸は微笑むと繋いでいた手をギュッと握りなおした。

「そういう麻衣も大好きだけどね」

 サラッと当たり前の事を言うように口にすると陸はさらに言葉を続けた。

「でもこんな日だから麻衣と一緒に居られるんだし…俺は雪に触るよりも麻衣に触れていたいな」

 麻衣もたまには二人で篭るのも悪くないよね頷いた。

end

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