『-one-』

優しい手 P4


 目が覚めると体は昼間のようなだるさはほとんど消えて割と楽に体を起す事が出来た。

「ふぁ…よく寝た…」

 体から熱っぽさもだいぶ消えていて解熱剤が効いたんだと分かる。

 もうすぐ0時…。

 体がすっかり楽になっているおかげでもっと時間が経っていると思った。

「あ、れ…」

 暗闇に目が慣れてくると床に座ってベッドに顔を伏せながら寝ている陸の姿が目に入った。

 慌てて陸の体を揺する。

「陸、陸…起きて…」

「あ…ぁ…麻衣。寝てないとダメだろ…」

 眠たそうな目を擦りながら顔を上げて麻衣の額に手を伸ばして触れると少し嬉しそうに笑った。

「少し、下がったね」

「そんな事より!陸、仕事は?」

 あれ程休まないでってお願いしたのに…。

「ん…一応出掛けたには出掛けたけどさ…」

 確かにスーツを着ている所は見たと思ったのに今は部屋着でベッドの下に座り込んでいる。

「麻衣一人にしておけないだろ?普段あんまり一緒に居てあげられないからこんな時くらい側にいてあげたいなって」

 そんな風に言われたら返す言葉もない。

 ただの風邪なのに一人でいるのが心細かったのは事実だから。

「ずっとここに居たの?」

「うん、なかなか熱下がらなくて苦しそうだったから」

 じゃあ…あの声も手も陸だったんだ。

 お母ちゃんと同じようにしてくれていたのかな。

「ありがとね」

 陸は立ち上がってもう一度麻衣をベッドに寝かせると布団を掛けて頬を撫でる。

「朝までぐっすり寝たら良くなるよ。ゆっくりお休み」

「陸は?」

「俺はソファで寝るよ。俺が隣に居たらゆっくり眠れないといけないしね」

 そのまま部屋を出て行こうとする陸の手を掴まえて引き止める。

「行かないで」

 まるで子供のように自然と言葉が出た。

「とんだ甘えんぼさんだなぁ…」

 笑いながらベッドに上がり添い寝するとポンポンと布団の上からさっきと同じように叩いている。

「麻衣が眠るまでいてあげるから」

「ん…」

 肘を付いて横になっている陸に擦り寄って布団の上に置かれた手に麻衣は自分の手を重ねるように置くとそのまま指を絡めた。

「麻衣?ほら…ちゃんと布団に入って」

 陸は手を布団の中にしまおうと体を起こすと麻衣に抱きつかれて慌てて体を支える。

 麻衣はそんな事もお構いなしにそのまま陸の肩に額を押し付けてくる。

「全く…そんな可愛い事ばっかりすると…」

 陸は甘えてくる麻衣の仕草が嬉しくて布団の中に潜り込むと自分の体で麻衣の体を包み込む。

「ダメだって分かってるのになぁ…俺ってどうしようもないね」

 陸の体が熱く感じるのは自分の熱のせいでも陸が熱を出しているわけでもない。

 ギュッと抱きしめ体の押し付けられた部分が熱く反応しているから。

「風邪うつっちゃうよ?」

 いけないと分かっているはずなのにもう二人の顔はお互いの息が掛かる所まで近付いている。

「うつったら麻衣が看病してくれるでしょ?」

 チュッチュッと額や頬にキスをしてくる。

「うん。陸がしてくれたみたいにね」

「じゃあ…こういう事も?」

 ゆっくりと麻衣の体の上に移動する。

 上から顔を見下ろして微笑むと顔を近づけて麻衣の唇を舐めた。

「ふっ…んっ…」

 麻衣の開きかけた唇の間をすり抜けるように陸の舌が中に入る。

 最初は遠慮がちに動いていた舌も激しく水音が聞こえるほど麻衣の舌と絡み合う。

「やっぱり…まだ熱い」

 唇を離した陸はそう呟きながらも自分の中の熱が抑えられないかのようにその手をパジャマの中へと潜り込ませて火照っている麻衣の体を熱くする。

「この手が好き…いつも私を触ってくれる優しい手」

 麻衣の言葉に陸は微笑むと熱を吸い取るように麻衣の熱い唇に吸い付いた。

end

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