『-one-』

元カノ現る P4


 陸は女の子と少し話してから私の所へ来た。

「来てくれたの?嬉しいな」

 きっと腹の中じゃすっごく怒ってるくせに笑って私の横に座った。

「悠斗くん?お願いしたはずだけど?」

 陸と目も合わせず悠斗くんの方を見た。

「あ…それは…」

 別に悠斗くんが悪いわけでも陸が悪いわけでもない事ぐらい分かってる。

 彼氏の仕事がホストって分かってるくせに割り切れてない私が一番悪い。

「ちゃんと聞きましたよ?嫌われるような事したかな?」

 そう言う顔もいつもの営業スマイルで全然何を考えているの分からない。

「さぁどうかな?悠斗くん?」

 また空になったグラスを振って見せると明らかに困った顔をして陸の顔色を窺っている。

「少し飲みすぎかな?」

 そう言って陸は私の手からグラスを取ろうとした。

「何?ホストが客にお酒飲ませないの?」

「え?」

 そこまで酔ってはいなかったけどつい口から出てしまった。

 きっと今日の私は陸を困らせたいだけ。

「ま、麻衣さん…」

 二人のやりとりをオロオロしながら見る悠斗くん。

 悠斗くんまで困らせるつもりなんてこれっぽちもなかったけどもう手遅れかもしれない。

「お酒は楽しく飲まないとおいしくないよ?」

 水の入ったグラスを私に握らせると陸はその上からギュッと握って来た。

「今日は帰った方が良さそうだ」

 何その言い方…。

 いくら私が悪くても今日の私はそんなに聞きわけが良くないし笑って陸を見送る事も出来ないの。

「そうね。私が居たら邪魔でしょうし」

 思った事と反対の言葉が口から出る。

 本当は帰りたくない、行かないでって言いたいはずなのに。

「…なっ!麻衣…?」

 一瞬いつもの陸に表情が戻ったけれど後ろから声掛けられてあの子のテーブルに目をやった。

「No.1は忙しいでしょ?どうぞ?」

「…後で電話する」

 小さい声で呟いてあっさりとさっきのテーブルに戻っていく。

 戻ってからあの子と笑顔で言葉を交わす陸を見て頭に血が昇った。

「悠斗くん、外で飲み直そうよ?」

「え?でも…陸さんが…」

 びっくりした顔で私を見る。

「いいから…」

 後ろのほうから痛いほどの視線を感じた。

 どうせ他の子のテーブルにいたら何も出来ないくせにとブツブツ文句を言いながら会計を済ませて悠斗くんと二人で店を出た。

「麻衣さん、どうしちゃったんですか?」

 店を出て近くのバーに入るとようやく少し冷静になった。

「…見っとも無いとこ見せちゃった」

 はぁ…何やってんだろ。

 こんなみっともない事するなんて思っても無かった。

「あの子が原因ですか?」

 心配そうに私の顔を覗き込む。

「…んーどうなんだろ。ホストだって分かってるのに何か急に嫌になっちゃって…お店の中だけならいけどやっぱり外でも会ってるわけだし」

 この前もそして今日も二人はお店の外で会っている。

 私の知らない所で遊んでそして楽しそうに笑ってるの。

 私にキスした後にあの子の手を繋いだり肩に手を回したりしてるのかもしれない…そう考えるとやりきれい気持ちになった。

「陸さんは麻衣さんの事すごく好きじゃないですか」

「そうなのかな…?」

「当たり前じゃないですか!麻衣さんと付き合うようになってから絶対店で深酒しないし、俺達が見ててもすっげぇ大事にしてるの分かりますよ?」

「…そぉ?」

 確かに悠斗くんの言うとおりなんだけど。

 ブブブ…ブブブ…

 震える携帯を見ると陸からの着信だった。

 私はボタンを押して電源を切った。

「出ないんですか?陸さん怒りますよ?」

 今はとても普通に話せそうになかった。

 なぜかあの子だけは違うような気がして私の心の中は不安でいっぱいになっていた。


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