『いつかの夏へ』
2

 それでも雅樹のことを教えてくれるのはてっちゃんしかない。

 今は辛い気持ちを押し殺して笑った。

「それで…どんな感じだった?」

「どんな感じって?」

 てっちゃんが首を傾げて私を見る。

「だからー変わってた?」

「そりゃ10年も経てば変わってんだろ!まぁ…中には真子ちゃんみたいな人もいるんだろうけど」

 楽しそうに笑っている。

 いつもなら突っ込むところも私は笑顔を貼り付けたままだった。

 聞きたい事がうまく聞きだせなくて気持ちばかりが焦ってしまう。

「真子ちゃん、自分で確認したら?」

「え?」

 さっきまでの調子でサラッと言われた。

 まるでお酒をもう一杯勧めるみたいに軽い口調が冗談かと思って私は聞き返してしまった。

 てっちゃんはの顔から笑顔が消えて少し真剣な表情になった。

「自分で確認してみたら?」

 もう一度同じ事を言われた。

(私に会えって言ってるの?)

 言葉の真意が掴めずに視線を泳がせているとてっちゃんは立ち上がり私の肩をポンと叩いた。

「真子ちゃん忘れたの?俺は雅樹の親友だよ。そして俺は昔っから友達には義理堅い」

 それだけ言うと歩いて行ってしまった。

「ちょ、ちょっと!てっちゃん!?」

 私はその場に不釣合いなほどの大きな声で呼び止めたが振り返りもせずに手を上げて歩いて行ってしまう。

(一体何なのよ!!)

 追い掛けようとバッグを持つとてっちゃんとすれ違った男の人が真っ直ぐこっちに歩いて来た。

「てっちゃんか…懐かしいな」

 その人は私に向かってそう言った。


 聞き間違えるわけがない。

 その声はずっと昔から知っている声だった。

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